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分かりやすさと一般化

統計学

書籍出版に伴う(個人的な)緊急事態宣言が続いています.と言うわけで,まだブログに時間はさけないのですが,ここにきて色々と悩みが出てきました.それというのも,奥村先生がこのようにTweetされていて,やはり人に理解してもらう図を書くのは難しいのだなと認識したからです.

確かに,この図は変ですね,何が変かと言うと,確率変数としての標本平均ということがこの図からは分かりません.たまたまこうなったというスナップショットで統計学の一般を説明しているのだとは思いますが,これだと誤解する生徒も多いはずです.先生が言葉で補う必要が出てきます.講義スライドならそれでも許されるかもしれませんが,テキストでは本文中にきちんと説明しなければなりません.

また,標本平均の平均と母平均が違っているのも,スナップショットとしてはあり得ても,この図の印象が残ってしまうと,この先推定を教える際に障害になります.実は,私の講義のスライドではこのような図を書いて説明しています.

上記の教科書の図の問題を回避はしていると考えますが,いかがでしょう.縦軸が任意単位ということがぼやけるのもこの図の良いところです.縦軸は通常は確率密度なので,教科書の図のように重ねてしまうと,それぞれの面積が1でないことが明確なので,やはり少しおかしいと感じる生徒も多いはずです.

直感的な分かりやすさを重視するあまり一般化に失敗している,というこの事実に気づいて,今の原稿もこれでいいのかと悩んでいるわけです.こういう目で,世にある初心者向けの統計本を見ると,曖昧な図が多いことに改めて気づきました.でも,著者の立場に立つとよくわかるのは,分かりやすさと厳密さの板挟みという状況で,分かりやすさを優先せざるを得ないということです.上の図でも私の描いた図の方がわかりにくいはずです.

初心者向けの本はわからせる必要はなくて,わかった気にさせればいいとはよく言われますが,私はそういう本は書きたくないなと思っています.

それでは,また.

統計的問題解決研究所

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