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ウィルス感染症対策と統計リテラシー

統計学覚え書き

このブログでは,JMPや統計学,データサイエンスに絡むネタに限定して,基本的に時事ネタは扱わないようにしていましたが,先週に続いて本日も新型コロナウィルス感染症についての雑記となります.統計リテラシーにも少しだけ絡むのでお許しください.(そういえば,以前これからは統計リテラシーを今後は統計思考と呼ぶことにするなんて書きましたが,それでは通じない人が多いので,また統計リテラシーに戻そうと思ってます.)

未だに一部のマスコミでは新型肺炎と呼んでたりしてますが,既にウィルスによる感染症ということが確定しているし,肺炎の症状がない感染者も出ているのですから,新型肺炎という名称を報道で使い続けるのは意識が低いです.これは「オレオレ詐欺」と同じ構図ですね.メディアには,報道リテラシーを鍛えてもらいたいところですが,このレベルのメディアに対しては私たちの方でもメディアリテラシーを鍛える必要があります.昨今の状況は,2011年の東日本大震災に端を発した,福島第一原子力発電所のメルトダウンによる放射性物質の汚染で日本中がパニックになった状況と似ています.あのときと同様に,私たちのメディアリテラシーや統計リテラシーが試されています.

人々が不安を感じている今,いわゆる認知的不共和を解消しようと,SNSに多くの人々が情報を求めています.原因を知ることで不安を解消しようとするのは本能のなせる技です.とはいえ,そこには様々なクオリティの情報があふれています.明らかにフェイクニュースとわかる類はともかくとして,中には真偽不明の情報も多いようです.この状況では,私たちは「損得勘定」を判断基準に置きます.例えば,手洗いやうがいが奨励されていますが,感染防止を得とすれば,手間がかかるのは損です.手洗いなんて簡単だよと思う人もいるかもしれませんが,ウィルス感染症対策としての手洗いはなかなか大変ですよ.こちらの洗剤メーカーの手洗いマニュアルを見ていただくと,アルコールが乾く時間と二度洗い間隔を考慮するなら10分はかかります.もちろん,感染防止という得に見合うならば,やる価値はあるわけですが,付け爪どころかマニュキュアもNGです.腕時計も指輪も外さなければ効果が弱まります.

「損得勘定」というのが曲者で,他にもある感染症対策の中でも,スマホを電車の中で触らないとか,人混みに近づかないとかは多くの人が選択していない(できない)状況です.これに対してマスクをするのは損は少ないので,「損得勘定」の行動原理によって人々がマスクに群がり,今度は経済学の原理によって価格が上昇しているのです.でも,マスクに感染症の予防効果という得がいかほどあるのかは疑問です.メディアでは「元気な人はマスクをつける必要ない」という論調が主流で,例えばこちら.「加速した日本のマスク依存 脅威が去っても、し続ける?」

こういう情報に対して,自分の考えをしっかり持つことがメディアリテラシーや統計リテラシーの第一歩です.私は,自分の指が不用意に鼻や口につかないようにするのためには,マスクは一定の効果はあると考えてます.ですから,もともと花粉症ということもあって,花粉症のマスクで済ませています.格好悪くてもキッチンペーパーの自作マスクでもいいし,漂白剤などで殺菌すれば何回でも使えるのでスカーフなんかでもいいのではないでしょうか.

因みに,木工作業をやるので微笑粉塵を防ぐために,実はN95マスクを大量に保管しています.ココボロ(アコースティックギターのサイドとかバックに使われている赤っぽい木です)とか色々と粉塵を吸い込むと有害な木材もあるので必須なのです.とはいえ,それで感染症対策をしようとは思いませんけど.

情報の収集に際しても「損得勘定」のバイアスがかかります.今のように情報が錯綜しているときには,私たちは専門家の意見に耳を傾けがちですす.いわゆるヒューリスティックという認知バイアスで思考することのコストを下げているわけです.とはいえ,専門家の意見を盲信するのも危険という例を挙げると,ジョン・マドックス賞を受賞されている村中璃子さんがTwitterでこのように発言されていました.

以下引用
ものすごく大事な論文がNEJMに掲載されました。
・発症時(軽い症状でも)からウイルス量は多かった
・症状のない人でも症状のある人と同じくらいのウイルス量があった
つまり「無症状でも軽症でも感染力が強い」ということです。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2001737
引用ここまで

専門家の発言ですから,原著が引用されていて量的な根拠にも基づいています.量的というところに統計リテラシーの出番があります.村中さんの著書を見ると,ご自身が医師ということもあって科学的に物事を判断される方だということが伝わってきますが,上記発言の「つまり」以下「無症状でも軽症でも感染力が強い」という要約は少なくとも間違いであることがわかります.原著論文には「無症状でも軽症でも高濃度のコロナウイルスが検出された」とあるだけで,感染力が強いとは書かれていません.感染力が強いのではなくて,感染性があるということに過ぎません.厳密にはポリメラーゼ連鎖反応のサイクル値(Ct)と発症の関係性が低いということです.しかもサンプルサイズが小さいので,信頼性を評価できる段階ではないということもわかります.

ここまで理解した上で,「無症状でも軽症でも感染力が強い」とまでは言えないと私は判断しました.だからと言って,厚労省のPCR検査対象の方針『渡航歴や患者との接触歴などから、都道府県が必要と判断した場合に検査が行われます。』というのに異議がないわけではありません.むしろ,私はこの論文を読んで,臨床上は回復した人に感染性が残っているのではないかということが気になりました.通常のインフルエンザと違って,対症療法しかないのですから,発症後にPCR検査するよりも,症状回復後に実施する方が感染防止には効果的かもしれません.

今の私たちには,専門家の意見を鵜呑みにせず,このような様々な情報の一つ一つを自分の頭で考えることが何よりも必要ではないでしょうか.「だからどうなの?」と言われるかもしれませんが,少なくとも私の場合は,こうすることで認知的不協和を低減する役には立っているようです.

実際に役に立つ情報もあって,三重大学の奥村先生がTwitterで紹介されていた「マイクロファイバークロスによるウイルス除去に関する検討」などは,文献を読んだところ,統計的なデータ処理はされていないものの,明らかに効果はあると判断できました.先週,中国の特設サイトのQ&Aにスマホの表面を吹くようにと書かれていることを紹介したばかりで,私も気にはなっていたのですが,アルコールで拭くのは機器にダメージあるからなあと躊躇していたところです.マイクリファイバークロスっていわゆるトレシーってやつなので,早速試してみました.因みに,水で湿らせて使うと効果が上がるようです.使用後はキッチンハイターとかで洗えば再利用できると思うので,皆様もお試しください.

他にも色々なデータ,文献が出回ってきたので,近いうちにそれらを紹介してみたいと思います.

それでは,また.

統計的問題解決研究所

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