本日も「DOEを成功させるためのヒント」の続きを書きます.今回のヒントは「カスタム計画を使おう」というとても簡単でものなので,あまり説明する必要はないかもしれません.わたしがこんなことを言うまでもなく,JMPの実験計画メニューはJMP12からだったかJMP13からかは忘れましたが,このようになりました.
これはJMP14のメニューですが,「カスタム計画」を先頭に,それを補うための「拡張計画」を従えています.区切りが入ったその下には決定的「スクリーニング計画」があり,「古典的な計画」がその下に続きます.下の三つのメニューは「特殊な目的」の「Space Filling計画」を除いては,あまり使うことはありません.「計画の診断」にある「計画の評価」はとても有効な機能ですが,普通にカスタム計画を作ると「計画の評価」はレポートに出力されるので,独立したコマンドとして使う機会はさほど多くないと思います.
ご存知の方も多いと思いますが,カスタム計画はJMPだけの用語であって,一般的には最適計画(Optimal Design)と呼ばれています.Nordström, Kenneth (1999), Statistical Science 14 (2): 174–196 によればGustav Elfvingという統計学者が極地観測において観測回数(実験回数)を最少にすべく考案した手法がもとになったようです.実験回数の圧縮に生命を賭した,まさに生き残るための実験計画だったわけです.わたしたちにとっても実験回数の圧縮は切実な問題ですから,これを使わない手はありません.
とは言っても,医薬系を除く日本の製造業のメーカーでは馴染みがないと思うので,上司や同僚にカスタム計画とは何かということを説明する必要がるかもしれません,そんなときは,数式を並べるのではなく,より具体的に従来の実験計画と異なっている特徴が求められます.それは何かと考える鍵が「古典的な計画」です.この下のサブメニューには「スクリーニング計画」「応答曲面計画」「完全実施要因計画」「配合計画」「タグチ配列」の5つがあります.この中で「配合計画」はちょっと異端で,なぜに「古典的な計画」に押し込まれているのか不思議です.計画の手法というよりは実験の制約に関する計画手法なので「特殊な目的」の下に入れたほうが良いような気もします.事実,配合計画では「最適計画」や「Space Filling」といった(古典的ではない)計画の種類が選べます.改めてその他の4つの計画を眺めると,それらは基本的に直交計画であることがわかります.カスタム計画の特徴を伝える際は,直交計画との比較を念頭に入れるといいです.
それでは,L12,L16,L18等に代表される直交計画とはどういうものかと長所短所を挙げてみると.
● 直交しているので安全な計画が組める
● ツールを必要としない
安全といっても予測に安全という意味ですが,これが最大の長所ですね.JMPユーザーにとってはソフトを必要としないというのは長所にはなりません.
● TAGUCHIのロバスト設計が適用できる(L18)
これは長所といって良いものか悩みますが,要因効果図が正確に描けるということは長所といっても良いかもしれません.
● 計画の選び方,割り付けに知識を要する
● 実験数が比較的多くなる
これらが短所です.
これに対し非直交計画であるカスタム計画では,直交計画とは真逆の特徴になります.
● 既存の知見を生かすことで,実験数が圧縮できる
● 拡張計画による戦略的で粘り強い技術活動を支援する
少し飾った表現があざといかもしれませんが,これが長所です.一方,短所は以下のようなものでしょう.
● 直交していないためできた計画の評価が必要
● ツールが必須
● TAGUCHIのロバスト設計の適用不可
安全な計画と判断するには計画の評価が必要ですが,JMPならば(勝手に)実施してくれますし,安全性という意味では,そもそも最適化設計にはいかなる計画を採用しても再現性の確認が必要です.ですから,JMPユーザーであって,品質工学をやるのでもなければこれらは短所とは言えないですね.
結論としては,実験数の制約が厳しく,(そのことのデメリットを覚悟した上で)一実験でも減らしたいならばカスタム計画に限ります.更に.わたしがカスタム計画が技術者向けと思うもう一つ理由は,いろいろ覚える必要がないということです.実験計画を勉強することなしに,身軽に実験計画を使って最適化を実施して素早く問題解決に挑むことの意義は大きいと考えています.
カスタム計画以外にも,拡張計画とか決定的スクリーニング計画,あるいはSpace Filling等の有効な計画があり,これらとの使い分けについて,あるいはカスタム計画においても最適化の基準等知っていくべきことはありますので,これらについてはまたいつか書こうと思います.
それではまた.
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