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とあるJMPユーザーのニューノーマル

覚え書き

日々の東京の感染者数に一喜一憂している昨今ですが,しばらくはこの調子が続くのでしょうね.(第一波に限ってではありますが)少くとも,西浦先生が指摘されていた「対策なければ40万人死亡」という事態は回避できたようです.今にして思えば,この先生の発言もメディアの不完全な報道で批判を受けました.この推定は「対策を取らなければ」という前提のもとでの試算なのです.先生もこの発言の後に「40万人が亡くなるとは想定していない。この感染症は人との接触を大幅に削減すれば流行を止めることができる」と言われていたのですが,メディアによっては,その部分をうまく伝えていませんでした.例えば,毎日新聞は「対策なければ重篤85万人 専門家試算、国内42万人死亡」と報道しました.見出しにこそ「対策なければ」とありますが,読むととても不安になる記事ですよね.

国民を不安に煽っているのではないかという批判は,メディアにこそ向けられても専門家に向けるのは少し違うような気がします.見る対象が同じであっても,専門家と国民では視点が違います.前者は常に母集団を見ています.例えば,コロナではなく毎年のインフルエンザの感染者数は推定値です.言い換えれば,推定量という確率変数の実現値としての推定値です.これに対して,私たちが感じることのできるのは標本としてのインフルエンザ感染者数にすぎません.コロナの場合,両者ともに母集団を追ってはいるのですが,専門家は非サンプリングエラーなどを踏まえて標本を見ています.クラウター対策の初期段階でも,西浦先生は10倍程度と見積もっておられました.更には非サンプリングエラーを検査カバレッジという専門用語で語られていました.

専門家の頭には母集団があって,一般の人には標本しか見えていない.お互いにこの違いを意識しないと,誤解に繋がります.特に,感染症のように時間依存がある過渡的現象では,常に母集団を見ている人は先が読めます.ところが,標本しか見れない私たちにはそれができません.この乖離を埋めてくれるのがメディアの役目と思うのですが,例えばこのTweet を見るにつけても,基本的な科学リテラシーもないところも多いので,日本のメディアには荷が重いかもしれません.

そこで,出番となるのが,私たち一般人のなかで統計リテラシーを備えた人々です.マスメディアと違って,情報の伝搬力は微々たるものですが,頭数では圧倒します.一人一人が家族や同僚,友人に正しい解釈を伝えることの重要性は過去に何度も書いています.私が統計リテラシーのセミナーを開催する目的はまさにこのことにあります.新入社員に対して実施することが多いセミナーですが,今年はコロナ禍で受講生間の会話どころか,対面セミナーの開催もできません.そこで,完全な座学に切り替えたりしていますが,これではこのセミナーの効果は10%も出せません.そこで,統計リテラシーの重要性を認識してくれる一部の会社からは,オンラインでの開催を依頼されています.何がどこまでできるわかりませんが,面白そうなので安請け合いしてしまい,この週末はオンライン授業ができる場所を自宅に確保するために大掛かりなレイアウト変更をしていました.(それで今クタクタになってます.)

その一方で,統計リテラシーのセミナーのネタをコロナに置き換えることにも腐心しています.(毎日のようにネタが収集できるので,最近は飽きてきましたが.)例えば,従来はドーピングのネタで二種類の過誤を考えてもらっていましたが,それをPCR検査というネタに置き換えたりしています.どんな感じになるのか,近いうちにこのブログでも紹介します.

いろんな意味で,コロナが今までを変えていく中で,JMPユーザーとして,今までをより良いニューノーマルに変えていければいいなと思っています.私の生業である実験計画のコンサルテーションでも,その一環として紙ヘリコプターを使った実習を計画していました.紙ヘリコプターの実習といえば,2017年のサミットで,慶應義塾大学客員教授の高橋先生が発表されていた「統計モデルの模擬体験教育」 に詳しいので,ご参考まで.この実習はサミットの前日にSAS社の有償セミナーとして何回か開催され,私もアシスタントとして参加していたのですが,残念ながら今年は開催は無理でしょう.それどころか,当面はこの手の三密イベントは無理でしょうね.その代わりにオンラインでも実施できるトレーニングを考案しています.「飛球シミュレータ」を使ったトレーニングは『統計的問題解決入門』でも紹介しましたが,もっと単純な仕様でも十分かな.

それでは,後片付けが残っていますので,今夜はこれで.

統計的問題解決研究所

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