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コロナ時代のメディアリテラシー

統計リテラシー

最近の報道ではコロナ対策についての主張が二極化しています.以前から言われていた,コロナなんてただの風邪という意見と,現状の危機を認識しPCR検査を積極的に実施して,感染者を炙り出すことで,部分的にでもコミュニティをロックアウトせよという意見です.それに誘導されてでしょうか,私たちの間にもある意味対立が生じてしまっているのは残念なことです.二週間後には日本はどこどこの国のようになる・・・という従来からのマスコミの基調に乗せられている人々もいる一方で,渋谷ではクラスターフェスとかいうノーマスク,ノー自粛を標榜する団体の催しが開催されたりしています.そもそも,医療や政治あるいは経済の観点だけから最適解を考えても意味がないのは確実です.自動車の運転テクニックにヒール・アンド・トーというのがありますが,まさにアクセルとブレーキを一本の足で踏み分ける高度なテクニックが要される状況と言えましょうか.いずれにしても,何らかの妥協を前提とした準解を探さなければなりません.当然,立場の違う人々の間の交渉が必要となるので,そのお膳立てをするのが政治の一つの役割のはずです.そのような方向でのリーダーシップをぜひ期待したいところです.

報道にはこの両者の主張が織り交ざっているのでやっかいです.両者は互いに思うところが違うわけなのですが,純粋に情報を求めているものにとって,正義や思惑はいい迷惑です.とはいえ,情報発信者の思惑を窺い知るという統計リテラシーを鍛える良い練習になります.例えば,ほぼすべての報道はコロナ感染者数しかも今までの累計をトップに掲げるので,およそ45500人ということを知っていると思いますが,そのうち既に31000人程度は退院していることをご存知でしょうか.重症者数が増加傾向にあると報道されています.確かにその傾向は見えていますが,現在のECMO治療を受けている患者数を知っている人は少ないのではないでしょうか?本日の朝見たところでは,12人です.因みに日本にECMOは1412台ありますから1%以下です.時間差のため追従性がよくないので,感染状況の把握にはむいているわけではありませんが,おそらく,ほとんどの人がこのデータを知ると安心するのではないでしょうか.だから報道されないのです.メディアが稼ぐためにはより刺激的な情報で,できれば視聴者に恐怖を感じさせなければなりません.その思惑が分かっていれば,昨今の報道を色々と楽しむことができます. 
統計リテラシーというよりはメディアリテラシーと言った方が正確かもしれません.でも,根っこは同じです. 百聞は一件にしかずと言いますが,報道では視覚的情報が重要視されます.例えば.TVに棒グラフや円グラフが多いのもそれが理由だとか.そう言えばTVでは散布図はあまり見ないですよね.1秒で誰にでも分かってもらえるようにという配慮からと言えば聞こえはいいですが,そのことを逆手にとって,誰でも騙しやすいように棒グラフを使っている例が散見されます.『統計的問題解決入門』にも書きましたけど,3D円グラフとかは目の錯覚を起こしやすいグラフの典型です.円グラフの三次元化は厳禁であると,生徒さんには教えてますが,それはグラフ要素が面積のグラフでは,斜めから見ると観測値が比例しなくなってしまうからです. 
 視覚情報として最も効果が高いのが写真です.写真は加工できてしまうので,データとしての価値は低いのですが,例えば,1ヶ月以上前になりますが,この記事を見てください.
「コロナ前の喧騒、程遠く 人気居酒屋、閉店も検討―宣言解除25日で1カ月・アメ横」 この写真のトリックがお分かりでしょうか.既に同様な手法が色々と暴かれていますよね.この上下2枚の写真は異なるレンズで撮影されています.専門用語で言うと,上の人が少ない写真は焦点深度が深いレンズで撮影されています.その証拠がこちら.アメ横商店街のStreet Viewですが,こちらが解除前の5月6日の写真の撮影場所です.一方,こちらが解除後に6月23日に人通りが戻ってきたと言う写真の撮影場所です.そんなバカなと思うかもしれませんが,ある点に注目するとそれとわかります.一つだけヒントを.上の写真で,中央の赤いカラオケ屋の看板を見つけてみてください.場所はここです.この赤い看板を下の写真でも探してみてください.わかりますか?アメ横のアーチの「横」と言う字に上が隠れているのがそうです.まったく違って見えますよね?しかも,このことをごまかすために下の写真では撮影地点をかなり後方にずらしてアメ横のアーチが同じよう見える撮影ポイントを選んでいるのです.
因みに,この場所を知っている人ならお分かりのように,この先で上野中通商店街と合流します.どうやら,解除前もその合流地点より先はそれなりの人通りがあったようにも見えます. お店が閉まってれば商店街を通る人が少ないのは当たり前なので,人の流れが変わっただけなのかもしれません.真実はこの報道からはわかりませんが,少なくとも写真撮影に細工をしているのは間違いなく,問題はなぜこのような細工をしたのか?ということです.単にニュースになるから,絵になるからと言う理由だけかもしれませんが,こんなことをしてまでも私たちに何かを思い込ませたいのではないかと勘ぐってしまうのです.それはなにかはこの場では書かないでおきます.
今回のパンデミックが世界史に残る事件となったことは間違いありません.そして,この事件では,報道関係者だけでなく,医療関係者や研究者の姿勢も問われています.医療器具や各種検査装置をはじめ世の中を支える様々な技術に携わる技術者も同様です.自分としては,広い意味で技術倫理を考える良いきっかけになってます.あるいは自分自身に問うてみていると言ってもいいかもしれません.「Do Artifacts Have Politics」という社者科学者のウィナー先生のエッセーがあって,Langdon Winner(2000)『鯨と原子炉』紀伊国屋書店にも所収されているのですが,そこでの考察はとても重要です.それは技術者がこの世の中に創出する製品には政治があるということです.
現在進行形ではありますが,この事件をいかに糧にしていくかが私たちに問われていると思います.ニューノーマルと呼ばれる生活様式もその一つです.日本では普及していない高水温が使える温水洗濯機がヨーロッパでは珍しくないのは,ペストの感染防止にお湯で寝具を洗濯した名残だとも言われています.仕事でも,オンライン会議が増えて,出張が減っていくことでしょう.このような目に見えることだけにとどまらず,ポストコロナの考え方というのも重要と思っています. そのうち,それらをまとめられたらと考えています.
少し脱線してしまいた.それでは,これにて本日は失礼します.
統計的問題解決研究所

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