過去の投稿に画像リンク切れ多数ありご迷惑おかけしています.

正しい棒グラフ

JMP

先々週の記事でグラフビルダー の「区間」ドロップゾーンのお話をしたかと思うのですが,そこでこのグラフを使いました.

このとき「因みにこの棒グラフそのものは参考までに載せましたが,こういうグラフは書いてはいけません.JMPではデフォルトではこのようなグラフは描けません.なぜだかはお分かりですね.」と書いたのですが,このことにお問い合わせをいただきましたので,本日はその話をさせてください.

こうして誰が読んでいるかもわからないブログを毎週書き続けているわけですが,何か反応あると素直に嬉しいですね.こちらのブログでは,コメント欄はページの一番下の目立たないところに移動しましたので,連絡手段としてお使いください.お返事が必要な場合はメールアドレスもお願いします.因みに,こちらでもコメントは表示されません.前のブログでは,いただいたコメントを公開して良いか悩んだ末に公開しないほうが無難だろうと判断したこと多々あったので,こちらでは内容にかかわらずコメントは公開しないことにしました.承認が不要になったため,コメントを頂いても気づくのが遅れると思いますが,ご了承ください.月に一回は見るようにします.

さて,なぜ上のグラフがダメなのかというと,棒グラフは基本的に原点を見せなければならないからです.グラフビルダー で棒グラフを描くとデフォルトで原点が表示されますが,折れ線グラフにするとY軸の範囲は拡大されますので試してみてください.これはなぜかというと,棒グラフは,変数の変化を棒の長さ(というよりは長方形の面積)の視覚効果に訴えるグラフだからです.従って,微妙な変化を見るのには棒グラフは適していません.上のグラフの場合,エラーバーのデモとして見せたい部分を拡大したが故に原点が見えなくなっている,あまりよろしくないグラフなのです.変化を見るためには折れ線グラフにすべきだったのですが,元データでも棒グラフを使っていたというだけの理由で上のグラフは描きました.デモ用なのでお許しください.

そういえば,有意差を示すには棒グラフを使うことが多いのですが,この理由も差があることを見せたいが故の視覚効果を狙っているのでしょうか?例えばこの論文「曹,杉森,高(2017),心理学研究,第88巻第1号,33-42,doi.org/10.4992/jjpsy.88.15032」は日本人と中国人とのマルチモダリティな感情認知について,文化差に踏み込んだ面白い研究ですが,図3とか図5に日本人と中国人を対象に比較実験した結果が棒グラフで示されています.よく見るグラフですが,あれ,原点がありません.70%から下が切れてます.実験内容を読むに,ロジックを立てるのにおそらく苦労されたんでしょう.有意性がないことを論拠に議論を展開しているところなんかも気にはなります.心理学の実験はとにかく大変なので,こういうグラフを描きたくなる気持ちはわかります.

因みに,温度のような間隔尺度の変数の場合は,そもそも棒グラフは使ってはいけません.原点に意味がないからです.原点に意味がないという意味はゼロが数学的な0ではないということです.摂氏0度は温度という変数の値が「ない」わけではないですよね.比率尺度である身長などと比較すればこの点はお分かりいただけるでしょうか.ですから,比率尺度の変数であれば棒グラフにしてもOKです,但し,原点はカットしてはいけません.細かい変化を見せたいのであれば,折れ線グラフを使ってください.原点なしの棒グラフはマスコミがよく使う印象操作手法ですが,同じくよく見かける波線棒グラフ(波線で途中を省略した棒グラフ)なんかもも技術者が使ってはダメです.

わたしはTVを見ないのですが,マスコミといえばTVの創作グラフは色々とやらかしてるようです.例えば,これとかこれ.以前,どこかでTV関係者の言い訳を聞いたことがあります.TVではグラフは一瞬しか映せないので,視聴者に見やすくかつ分かりやすいのが棒グラフなんだとか.確かに算数に疎い人でも棒グラフは読めるでしょう.でもね,原点をカットしてしまったら,結果として間違った事実をわからせることになるので,それは印象操作と同じです.こういうプロパガンダに対するには一人一人が統計リテラシーを身に付けることが必須です.傑作揃いのマスコミの創作グラフで,今まで見た中で最高傑作がこれです.どんなダメグラフでもこのグラフに比べればマシですね.

この記事に「統計リテラシー」のキーワードもつけたくなりました.今度こそ,キーワードはきちんとやろうと思っているのですが,もうグダグダになってきました.

それではまた.

統計的問題解決研究所

コメント