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大学生ミライの因果関係の探求

覚え書き

このブログではときどきは書評も書いていこうかと思っています.本日はこの本.
小塩真司(2016)「大学生ミライの因果関係の探求」ちとせプレス

早稲田大学文学学術院の小塩先生が書かれた統計学の参考書で,「ストーリーでわかる心理統計」と表紙にかかれている通り心理学を学ぶ大学生を主人公にした物語です.ストーリでわかるということに興味を惹かれたので読んでみました.ネタバレはしたくないので詳しくは書きませんが,ミステリーっぽいお話しが織り込まれていて,確かにストーリー仕立てにはなっています.前作もあるようですが,そちらは読んではいませんが,おそらく好評だったので今回第二作目となったのでしょう.

一つ,ストーリーが統計の解説に必須というわけではないのが少々残念です.もちろん,そのようなストーリーを創作するのは難しいとは思います.「連続変数殺人事件」とか「ロジスティック回帰の罠」とかタイトルだけならいくらでも思いつきますけれど.おそらくストーリーを読んで統計を勉強しましょうというよりは,ストーリーを読むついでに統計も勉強してもらいましょうという意図があるのでしょう.ちょうどほうれん草の嫌いな子供に母親がハンバーグにこっそり混ぜ込んで食べさせるというような感じかもしれません.それとタイトルにある因果関係についてはもっと突っ込んだストーリーがあるともっと楽しめたかもしれません.

本書の紹介に戻りますと,大学二年生の主人公が統計を勉強する過程で,検定の考え方や二次の交互作用の説明などもストーリーに合わせて丁寧にかつ面白く説明されています.一つ残念なのは,このような初級者を対象にした本でも不偏分散の説明は端折られているということです.冒頭と言ってもいいp13に不偏分散が出てくるのですが,そこでは「標本分散は,データを母集団全体とみなしたときの分散,不偏分散は,データを母集団から抜き出した標本と見なしたときの分散.データの数から1を引いて算出する.」と極々当たりまえのように書かれています.なぜと思う学生は心理学の学生には少ないのかもしれません.心理学の学生は一般的には文系と区別されることが多いので,理系の学生のように理屈にはこだわらないのかもしれません.それは実務と関連付けて統計学を学ぶ者にとってはおそらく正解でしょう.

とはいえ,どうしても細かいところが気になる人もいます.「なぜ普遍分散はn-1で割るのか?」いちど気になると先にすすめないのです.それは脇に置いて先に進むのが本当は賢いのです.世の中全てが理解できることばかりではないのですから.足元をしっかりと固めて先に進むというタイプの人にはこのことが苦痛です.正直に告白するとそれは私です.このため,統計学の勉強はかなりスタートでもたつきました.この体験については別の機会に書くことにします.

この本の最後の章である事件が起こるのですが、そこでのテーマはデータの捏造です.ここには,これから研究する学生に向けて著者からのメッセージがあります.「人が対象の学問ではデータに手を加えるということの誘惑は大きい」ということを知っておくことは人が対象ではない製造技術系の実務者にとっても重要です.

統計的問題解決研究所

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