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再現について思う

覚え書き

このブログを見ている人はまだいないと思うと,何か星空を眺めてつぶやいているという孤独な気持ちです.とはいえブログ書きの練習の意味もあって雑文を書きます.週末に定期的にアップしようと思っていたのですが,そうするといざ書こうとしても書きたいと思っていたことを忘れてしまっているので,思いついたときに書くことにしました.

「統計的問題解決入門」ではテーブルの結合(join)と連結(concatenate)について,日本語ではそれらの言葉の使い分けが曖昧であることを指摘しました.その他にも,計測不能という言葉も英語のimmeasurableとunmeasurableという使い分けがそもそも日本語にないことも触れています.最終的にはページ数の制限のために割愛しましたが,同じような英語と日本語との言葉の齟齬についても初期の原稿にはその他にも幾つかの例を書いていました.その一つが再現という言葉です.再現実験という言葉は本書でも用いていて,言葉の意味からは確認実験と呼ぶ人もいるということを言及しています.

再現実験を確認実験という言葉に置き換えること自体には抵抗はありませんが,再現実験は英語ではReproducible experimentであり,再現という日本語にはRepetitionとReplicationとに対応した意味があるということには注意が必要です.Repetitionとは空間的時間的に異なった複数点での観測のことで,Replicationとは空間的時間的に限定された複数の観測のことです.前者を反復,後者を繰り返しと呼んで区別している方もいらっしゃいますが,一般には厳密には使い分けられていないように思います.ややこしいのはあのFisherでさえ,RepetitionとReplicationとの区別はしているものの,それらを合わせてReplicationと呼んでいたりしていることです.(出典を探したのですがすいません,どこで読んだのか失念してしまいました.)

計測技術に長く関わってきた者として再現性は装置評価には必須の指標です.再現性はRepeatabilityとReproducebilityの二つで定義されます.それぞれはRepetitionとReplicationとに対応しているものと考えています.従って,厳密には繰り返し再現性と反復再現性と呼ぶべきなのかもしれませんが,計測分野ではそういう区別はなされていません.従って,再現実験をパラメータ設計で求められた解における推定値と実実験での値との反復再現性を評価するための実験と定義すれば,これを再現実験と呼んでも問題ないように思います.確認実験と呼ぶべきだという主張は,繰り返し再現性のイメージが強いのかもしれません.
 これらの言葉の齟齬は統計学に限ったことではなく,日本語と外国語とではあって当たり前のものです.例えば,龍は和英を引けばDragonですが,龍とドラゴンとは違う概念ですし,そもそも龍は竜とも違う概念です.りんごも厳密にはAppleとは異った概念を示す言葉です.わかりやすいのが画像検索で「なし」と「pear」をそれぞれの言語で検索してみてください.日本人の梨とアメリカ人のpearとは想うものが違うことが一目でわかりますね.
統計を学ぶ際に英語で学ぶことのメリットについては常々思っていることです.概念の理解にはその言語の原産地の言葉で学ぶのがベストですが,それもなかなか難しいのが現実です.いつかのブログでも書きましたが,新しい学問分野を輸入する際には先生方には後学の徒のために最適な日本語を考えてくださることを願うばかりです.Alternative hypothesisを対立仮説と訳した先生も(ご存命とは思いませんけど)もしかしたら後悔なさっているかも知れません.

統計的問題解決研究所

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