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話術の話

覚え書き

今週は依頼を受けて某所で「統計リテラシー」のセミナーを開催しました.本来のわたしのスタイルは実験計画などの事例指導を兼ねて,自らも技術者の一員として一緒に問題解決に挑むというものなので,通常はセミナーなどを自主的に実施することはありません.もちろん,要望があれば,実習形式のセミナーでJMPの操作なども教えたりしていますが,単なるセミナーはあまりやりたくないのです.講演するならば他にもっとうまい人がいるし,そもそも人前で話すのが苦手だからです.よく「そうは見えない」と言われますが,いつも人前で話すのはとても緊張します. ロバート・ライト(2017)『なぜ今,仏教なのか』早川書房によれば,お釈迦様も「五つの恐怖」の一つに「集会で恥をかくことの恐怖」をあげておられます.この類の恐怖は社交性が高い人間ほど自らの血統の生存競争に有利であったという事実を踏まえると,人前で話すことに失敗することの不安,即ち社会的な将来性に対する不安に対しての遺伝子に組み込まれた本質的な応答なのです.
と,頭ではわかっていても,やはり,講演が終わった後も,言い足りなかったことや,手順を間違えたことなど,あんなこと言わなければよかったという後悔の念に苛まれます.この性分は話すのが苦手だからとずっと思っていたのですが,徳川夢声(2018)『話術』新潮文庫で夢声さんでもやはり講演のあとは憂鬱になると書かれていて,それ以来あんな話術の名人でもそうなんだと知って,気が楽になりました.この徳川夢声という人物,税務署に提出する書類の職業欄に「雑」と記入していたそうです.わたしも名前は知っていましたが,色々なコンテクストで名前が出てくるので俳優だかナレーターかはたまた作家なのか不明で,いわゆるタレント業と思っていました.この本を読んで漫談家というのが一番近いようです.
色々な話し方の本を読んでいますが,その中でも『話術』はわたしにも得るところ多かったです.久米宏が先輩から新米アナウンサーが読むべき本として推薦されたというだけあって,プロの評価も高いことを知りました.久米宏によるあとがきには,乱暴を承知でこの本の結論をまとめるとして,次の三つがあげられています.
1.人間性を向上させる
2.考える力を磨く
3.人の話をよく聴く
話が上手くなるための三つの要件というところでしょうか.よく考えて人の話を聞くことは心がけていますが,人間性を向上させるなどということが果たして可能かはわかりません.シャガールが良い絵を描くなんて簡単なことだ,それは良い人間であればいいのだから,というような趣旨のことを言っていた記憶があるのですが,確かにピカソなどと比較しても技巧的には優れているとは思えない彼の絵は理屈抜きに良いと感じます.確かに,この本にしかとと書いてあるわけではありませんが,夢声さんも上手く話すなんて簡単だよ,良い人間であればいいんだからなどと語っているように思えてきます.
もう一つ,わたしが話し方を勉強するのにやっていることは,声を出してメールを読むことです.メールといっても広告系の類のものが良いです.これをセミナーの1週間くらい前から,セミナーで想定する声の大きさで話します.そのときラバーダッキングならぬこちらの自作のカモの置物に向かってやります.

厳密にいうとこれはアビという大型の水鳥です.アメリカではルーンと呼び,目が赤く美しく鳴き声に特徴があることでとても人気があります.この置物は凝って作ったので背中のヒナ(この鳥にはそういう習性があります.)が蓋になって中に小物が収納できるようになっています.そういえば,いつだったかのブログでも別のカモを紹介しましたね.少し脱線しましたが,これをやるようになってから人前で話すのが楽になりました.気のせいかもしれませんけれど.皆様も一度お試しください.

それでは本日は簡単ですが.これで失礼します.

統計的問題解決研究所

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