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疲れる話

覚え書き

 まだまだ暑い中でエアコンが故障してしまいまして,ダメ元でお願いしたら翌日には修理に来てくれたのですが,その晩は大変な目にあいました.寝不足でバテバテだったのですが,来ていただいた修理の方がわたし以上にお疲れの様子.聞いてみると,やはり今年の夏は大忙しのようで,その日も10件のお宅を回らなければばならないとか.冷却ガスのボンベを運ぶのも辛そうだったので,手伝ってあげたりしたのですが,あの様子では疲労のために作業効率も上がらないでしょうし,何かの事故に繋がらないかと心配してしまいました.

本日は疲労について考えてみます.何らかの作業・活動をシステムと捉えたとき,その出力として疲労あるいは疲労感が考えられます.あるいは倦怠感などと呼んでもいいでしょう.作業効率というもう一方の出力特性とのトレードオフとしてシステムの最適化を考えるならば,疲労を数値化する必要があります.まずは,Apple WatchやFitbitに代表される活動量計を使うことが思い浮かびます.加速度センサーで歩行やランニングなどの運動量を計測するわけです.この指標は簡便はありますが,どうも因果関係が逆のような気もします.活動するから疲労するわけなので.
ご存じない方も多いかもしれませんが,実は疲労度計なるものが存在します.自律神経の機能低下を計測するのですが,その原理は脈波という末梢血管の振動波形の計測で,脈波センサーをハンドルに組み込んでドライバーの体調急変を予測するなどという試みがなされています.疲労計測にはロー波形を微分処理した加速度脈波を周波数解析し,その低周波成分と高周波成分との比を指標にします.その比を性別や年齢などで構成されたルックアップテーブルによって疲労度に変換します.わたしはまだ試したことはないので,一度計測してもらいたいと思っています.Apple Watchに実装されたら面白いですね.疲れてきたようだから少し休もうだとか.
疲労のバイオマーカーもいろいろと研究されていて,唾液中のヘルペスウイルス(HHV)の活性度を計測するという手法が開発されています.HHVは水疱瘡の原因ウイルスとしてご存じの方も多いと思いますが,治癒しても死滅せずに末梢神経に潜伏していることが知られています.宿主が疲労やストレスにさらされたりすると,宿主に見切りをつけて脱出を試みようと再活性化するという仕組みを使ったマーカーです.因みに再活性化があるラインを超えると帯状疱疹として発病するわけです.
疲労とか味覚とかをシステムの出力と考える際に難しいのは,人間には主観があるということです.上述した手法は,客観的に疲労を計測するものです.人間の精神力というのは侮れないもので疲労していても気が張り詰めているとそのことに気づきません.それだからこそ過労死なども問題になってくるわけです.信長に焼き討ちにあって焼死した快川紹喜は心頭滅却新すれば火もまた涼し」と辞世を残しました.信長もその2ヶ月後に炎に囲まれてそのわけですが,そのときこの辞世が彼に届いていたかは興味深いところです.(これは紹喜のオリジナルではなく,もともとは唐代の詩から採った臨済宗の公案だったようです.)
 そこで,疲労の主観的な数値化もなされています.チャルダースケールが世界的に使われています.14項目の質問の0から3の点数をつけるというよくある質問票による指標です.ただ,チャルダースケールはここ最近の疲れ具合を示すものですから,今どれだけ疲れているのかを示す疲労スケールも開発されています.大阪市立大学の研究グループは心身の疲労を総合的に数値化する指標を開発していますが,これの問題は100項目以上に及ぶのでそれだけで疲れてしまうということでしょうか.これらは社会心理学の研究を目的とされていますが,臨床ではもっと簡易な指標が必要になります.それがVAS(Visual Analogue Scale)です.臨床では痛みの測定尺度として簡易でしかも感度が高いという理由で世界共通の尺度となっています.(例えば,聖泉看護学研究  Seisen J. Nurs. Stud., Vol. 4. pp.83-90, 2015(疼痛アセスメントにおけるVisual Analogue Scale:VAS 使用に関する文献レビュー)PDFがダウンロードされますのでご注意ください.)これを疲労の評価に適用しようという試みで,日本疲労学会というのがあって,そこに疲労感VAS検査方法(いきなりPDFがダウンロードされるのでURLは載せませんが,TOPにリンクが貼ってあります)が掲載されています.ラインの人員配置の効率化(オペレータの疲労を勘案した本当の意味での)などに適用できるかもしれません.
わたしも本日は猛暑が戻ってきて疲れたのでここまでにしておきます.それではまた.

この記事を書くにあたっては渡辺・水野(2018)『疲労と回復の科学』日刊工業新聞社,が参考になりました.

統計的問題解決研究所

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