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システム最適化と中華料理

覚え書き

先週の記事で「P178のイラストのように同じシステムでも見方(角度)を変えれば,全く異なったシステムになります.同じ問題を共有している仲間だからこそ起きやすい間違いを避けるために,システム構造図を活用してください.」と書きましたが,初心者のうちはなかなか難しいと思います.本日は私が心がけていることをお話ししたいのですが,まず最初に一つの漢詩を引用します.

題西林壁
橫看成嶺側成峰
遠近高低各不同
不識廬山真面目
只縁身在此山中

これは北宋代最高の詩人と言われる蘇軾(そしょく)(1037-1101)の詩です.春宵一刻値千金でご存知の方も多いでしょう.有名な詩で,あちこちに解説がありますので(例えばここ)ここで繰り返すことはしませんが,わたしなりに自由に意訳してみます.

西林寺の壁にこの詩を書くよ
廬山(ろざん)は横から見れば山々が連なる嶺に見えるけど,また別の方向から見れば独立峰に見える
見るところが遠かったり近かったり,高かったり低かったりすると,廬山はそれぞれ皆異なって見える(これが廬山の真の姿なんだ)
だけど,この廬山の真の姿を知ることはできない
それはなぜかと言えば私が廬山の山中にいるからなんだ

廬山は中国江西省にある古典にもよくでてくる名山で,171もの峰々が連なる複雑な地形から構成された広い領域を指し,廬山自然公園として世界遺産にも登録されました.ここに有名な東林寺やこの西林寺が点在しています.
もうおわかりのように,システムを廬山に例えれば,その真の姿はシステムの中にいては見えないのです.それではどうすればいいかというと,システムの峰や嶺といった詳細を知るために,異なった複数の視点から眺めることが必要になります.このためにはシステムに関わるすべてのステークホルダー(利害関係者)を洗い出し,それぞれの立場からシステム構造を記述してみてください.
技術者が製品というシステムを考察するときはどうしても製造者としての立場になってしまいますが,例えばユーザーの立場に立ってみると,紙ヘリコプターであれば,特性である滞空時間はユーザーの身長に大きな影響を受けることがわかるはずです.その紙ヘリコプターを製造する立場に立ってみれば,形状が複雑な設計はプロセスタイムが増大するだけでなく,工作精度にも悪影響があるということが見えてきます.
これらの複数の視点を踏まえた上で,鳥になった気持ちでシステムを俯瞰します.わたしがシステムを考察するときには毎回このことを心掛けています.例えば,おそらくノイズ因子が影響しないシステムは製造業では皆無と思います.ノイズ因子に気づいていて,それを固定することでシステムから排除するというのであればいいのですが,そもそもノイズ因子に気付いていない.こういうシステムの構造を見落とさないためのヒントとしてお話ししました.
因みに,蘇軾の経歴を知ればこの詩の背景には仏教の根本思想があることが推察できます.般若心経の有名な一節「色不異空 空不異色(万物の事象には実態などはなくて空なのだ)にも通じるものです.ですから,蘇軾はこの詩は本来は「廬山の真の姿などというものは無い」ということを言っているのです.システムというものは,ステークホルダーとしての視点や,観察者の知識,経験によって変わるものであり,真のシステムなど存在しないということです.即ち,私たちは常にシステムの写像と対峙しているという認識が必要である,と常々謙虚に思っています.
蘇軾といえば,号を東坡といったことから,彼の考案したトンポーロという豚肉の中華料理にもその名を残しています.今晩はトンポーロでも食べながら,今抱えている問題のシステム構造について考えてみてください.
それではまた.

統計的問題解決研究所

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