過去の投稿に画像リンク切れ多数ありご迷惑おかけしています.

なぜ人々は分断するのか

統計リテラシー

コロナのパンデミックが私たちにもたらした悲劇は,多くの方が亡くなられていると言うことももちろんありますけど,それだけでなく,人々の分断を促進してしまったことにもあります.例えば,ワクチンと反ワクチンがそうですね.マスクと反マスクなんてのもあるかな.コロナはただの風邪と言う意見にも人々の分断があります.

どちらが正しいのかはここでは議論しませんが,これらの分断には人間の本質があります.Gaius Julius Caesar は紀元前100年の生まれですが,この当時にこんなことを言ってます.

Men willingly believe what they wish to be true.(人は真実と願うものを喜んで信じるのだ.)

まさに,2千年以上も未来の今を予言しています.この言葉は時々やっている「統計リテラシー」のセミナーでよく言及します.人間の認知バイアスを認めた上で,それを克服する能力が「統計リテラシー」なんだということです.

先週, 「わずか10秒で新型コロナの感染力が低下する」大学教授が予防効果アリと期待する”ある飲み物” 口からのウイルス拡散予防に期待 というネット記事に言及しました.「ある飲み物」とは紅茶なんですが,紅茶のインフルエンザ防止効果は,統計リテラシーの良いネタで,このブログでも日本紅茶協会の宣伝tweetが炎上したことを書いた記憶があります.

統計リテラシーがある人は,このような情報に対して自分で考えて判断することができます.そして,多くの場合,データを踏まえた正い判断に辿り着くことができます.ところが,統計リテラシーがない人たちは,真実と願うものに飛びついてしまいます.こういう人が影響力を持った,今でいうインフルエンサーである場合,これを核にして集団が形成されていきます.この集団に飲まれたら最後,いわゆるエコーチェンバー効果によって,抜け出せなくなってしまいます.

昔はこういう核が新聞だけだったわけですが,今ではフォロイーなどというものも無視できません.聞くところでは,ネット検索もやらずフォローしている人の意見を鵜呑みにする人が最近の若い世代に多いとか.紅茶がコロナ防止に効果がありますよとか,イベルメクチンがコロナに効きますよ,とかを自分で判断せずに流されてしまう.

気持ちはわかります.ハンバーガーが好きな人なら,ハンバーガーは健康に良いという情報を正しいと信じたくなるでしょう.でも,その情報の真偽について自分で考えることが重要です.それというのも,情報は意外性がないと流布しないという特徴があるので,世の中には多くの「間違った情報」が溢れているからです.(科学の世界では,逆に意外性があると受け入れられないという側面もあります.)

特に,日常に溢れている白黒はっきりしない問題では,この傾向が強まります.例えば,遺伝子組み換え食品の安全性とか,コロナワクチンの安全性はどう思うか?とか.このように明らかな正解が現時点では下しにくい問題では,二つのアプローチをとります.

上述したネット記事を見て私がどう判断したかというと,まず原典に当たりました.これが「中心的ルート処理」のアプローチです.問題についての一次情報を集め,その内容を自分で検討して判断するためです.もちろん,それが難しい場合もありますし,極端に専門的な論文などは読みこなすのも骨が折れます.その場合は,「周辺的ルート処理」として,周辺的な二次情報を集め,それら情報源の信頼性や量で判断します.ちなみに,この二つの処理に言及したのは,中谷内一也『リスクのモノサシ』NHKブックスが最初です.

中心的ルート処理のアプローチがベストですが,それには労力を費やすので,その人が正規人を追う立場であるなどの強い動機付けがあることが条件です.更には,その情報を判断できる専門的知識やそれを処理する能力があることも必須なのはもちろんです.ですから,どちらのアプローチが正しいということではなく,状況や立場によって使い分けることになります.

とはいえ,多くの人は,この二つ以外のアプローチをとってしまいます.それは耳を塞いで「ああ,聞こえない」状態になることです.重要な判断をすべき状況でやってはいけないことはスルーすること.流されることです.

まずこのことを強調して,来週も引き続き「紅茶のコロナ防止効果」のような「健康情報」について判断することについて考えてみたいと思います.

それでは.

統計的問題解決研究所

コメント