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実験計画とシナリオ

実験計画

嫌いなものの一つに精神論がある.先日,東京五輪組織委会長のメッセージを読んだけど,まさに精神論そのものだった.以下一部抜粋するとこんな感じ.

「...我々は必ずやる。やるかやらないかではなく、どうやってやるのか、新しい五輪を考えよう」と呼びかけ、「困難な時期に日本が五輪をやり遂げたことが世界に大きなメッセージになると思って、準備を続けている」と重ねて大会への強い意欲を示した。

戦略が練れないトップの部下が悲惨な目にあうことは太平洋戦争の経験からも明白だよね.(自分が直接経験したわけじゃないけど.)中止するというオプションも考えておかないと,想定外の津波で原子炉の電源喪失にともなう,炉心溶融事故のような惨事が起こりかねない.委員会では「中止」という言葉を出せる雰囲気でなかったというから,原子力委員会の状況とも似ている.あのときも「津波による電源喪失」という想定を口に出そうものなら「縁起でもないことを言うな」と咎められる雰囲気だったと言うから.日本人は言霊に弱いからね.

原子炉の例えを続ければ,電源が常にあることを前提としたシステムは天災のような想定外の状況では脆弱であることはあきらか.最近では,電源喪失という想定外の状況では,原子炉の余熱を利用して冷却したり,自動でシステムをシャットダウンできるようなソフトな仕組みが備わっているらしい.

考えれば如何様にも対策は設計できるけど,このとき大切なのはシナリオです.どういう状況が想定できるかをMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)フレームワークで列挙しなくちゃならない.このMECEは実験計画でもとても重要です.

例えば,球を投げる装置の最適化のために一因子実験を考える.Xは例えばばねの強さで,Yは飛距離だとする.このとき,装置が何台かあって,その違いでXとYの関係がどのようになるのかを考えることが大切です.実験数が3の場合を図に示すと,このようなシナリオが考えられるかな.(簡単な図で申し訳ない.)

一番左の場合なら,これで実験はおしまい.だけど,真ん中の場合ならどうか?もちろん,この結果が見通せないことも多いですよね.確信が持てないときは,ランダム化してその影響を偶然誤差に変換し,確信が持てないないなら後続実験を層別化するのがベターです.それでは,右の場合はどうか?おそらく後続実験の二因子化が必要になる.当然だけど,最初からこの結果が読めていれば,最初から二因子実験すべきです.

シナリオには数字も入ってる必要があります.例えば,東京五輪組織委会長のメッセージにも,いつまでに実効再生産数がいくつ以下になっていれば,とかの数字が入ってなければ,シナリオの進行が把握できない.ようするに適切な意思決定ができないんです.その他,オリンピック開催中に感染拡大が発生したらどうするのか?選手村でクラスターが発生したら?などをその数値指標とともに想定しなくては.

シナリオがない実験計画は精神論に陥りやすいので注意してください.実験計画を学ぶと,自然とこのシナリオと数値目標の重要性が身についてくるんだけどな.実験計画って技術者だけでなく,多くの人(政治家を含む)にもよい社会勉強になると思うんだけど.どうでしょう?

それでは.

統計的問題解決研究所

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