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転んでも只では起きぬ

実験計画

今月は統計リテラシーのオンライン講座を開催しています.受講者の皆様がそれなりの人数なので,何回かに分割して,もちろん完全なオンライン実施です.ようやく山場を越えたということで,まずはホッとしてるけど,気を引き締めていきます.この講座は,ワークショップ形式で実施しているんだけど,今回はオンライン開催ということで初めてブレークアウト・セッションを使ってみました.すべてのグループをセッション中に順番に回っていくんですが,その途中に別のグループから呼び出しかかったりして,とにかく忙しく,正直なところ大変疲れました.

オンラインということで一時は見合わせようかとも考えましたが,ワークショップでグループ討議を取り入れてほんとによかったです.禅宗では,悟りを得ようと修行している弟子に,師匠がそのきっかけを与えて悟りに導くその瞬間を「啐啄同時」(そったくどうじ)と呼びます.雛がふ化するのに内側から殻をつつくのが「啐」で,その音を聞いて親鳥が外側から殻をつつくのが「啄」の意味.その両方のタイミングが合うことでふ化,即ち大悟するということ.かの一休宗純は1420年のある夏の夜,座禅中に鴉の鳴き声を聞いて悟ったと伝えられているけど,厳しい修行を経て一定以上の境地にいたからこそ,わずかなきっかけで悟りが開かれたんだと思うのです.(因みに,この一休さんの大悟の経緯はいろいろあって,今は簡単に書きました.)

一休さんと比べるのは恐れ多いけど,ワークショップでグループ討議を入れると,この「啐啄同時」が得られることがあります.受講生の皆さんが真剣に考えたその後だと,講師(つまり私)が何かコメントしても響くところがあるようです.悟りとまではいかなくとも,少なくとも,統計リテラシーの概念だけでも頭に残ってくれればいいな.

この統計リテラシーだけど,日本では統計学の初のように理解されているのは以前も描いた記憶がある.例えば,総務省統計局の「なるほど統計学園高等部」にはこんな説明があります.

「統計は事実をできるだけ客観的に捉えられるように作成されたものでなければなりません。また、統計を利用する際は、その統計が意味することを正しく読み解かなければなりません。」

これだけでは少し物足りない気がする.なぜかというと上記の説明の「統計」を「データ」に置き換えても意味が通じるよね.「統計」の捉え方として「データ」そのものとするのは,日本だけのように思う.アメリカでも犯罪統計をCrime Statisticsと呼んだりするから間違いではないけど,Statisticsにはそれだけでなく,そのデータをもとに意思決定するという少しニュ違うニュアンスがあるのです.

今すぐに引用できないんだけど,以前読んだ文献によれば,言語情報に対するクリティカル・シンキングの数値情報版が統計リテラシーと書いてありました.そこでは主として帰納という論理手法を展開することになるので,間違いは付き物.統計学は,基本的に演繹的な数学処理を経て結果を導出するものだから,やはり両者は異なる概念だね.

この統計リテラシー講座では,確率的に行動結果を評価すること,そこに運と言うばらつきが存在していること.従って,成功(する可能性)を向上するためには多数回の試行が必要なことに気付いてもらうことが狙いの一つ.だから,早く前向きに失敗するための技術として実験計画の重要性をアピールしてます.転んでも只では起きないのが実験計画の神髄ともお伝えしました.

それで思い出したけど,転んでも只では起きないメーカーと思うのがヤマハ株式会社です.実は,昔仕事上の付き合いで良くしてもらったこともあり,個人的にもYAMAHA製品はいろいろあるので親近感もあります.といっても,ヤマハ発動機というオートバイ部門が分離した今では別会社のほうだけど.そこが,検査装置なども製造販売してるのを知ってますか?展示会で営業の方にきいたら,マウンターのような電子部品の実装関連機器だけでなく,その検査をするための装置も内製化して,それらを外販しているということらしい.

ヤマハのコーポレートサイトにはこんな説明がある.

「ヤマハ株式会社」は1987(昭和62)年10月1日、その前身「日本楽器製造株式会社」から現在の社名に変更しました。それは創業者山葉寅楠(1851(嘉永4)年4月20日生、1916(大正5)年8月8日没)が、静岡県浜松市で1台の壊れたオルガンの修理をきっかけにして創業を開始してからちょうど100年目の年でもありました。当社の商標「YAMAHA」はこの創業者の名に由来します。

ヤマハと言えばピアノだと思うよね.浜松市のゆるキャラの家康くんの袴はピアノの鍵盤になっているのは,ヤマハが浜松市の代表企業だから.(因みにこの絵だけど,Uの字は鼻じゃなくて口なんですと.出張で別の浜松市の有名メーカーを訪れたときに聞いて驚いた.)

画像:浜松市制100周年記念マスコットキャラクター「出世大名家康くん」

ネットにはYAMAHAすげぇーって有名なコピペがあるけど,正確な記事があります.この記事によると,小学校のオルガンを修理した経験をもとに,創業者の山葉さんはオルガンを自作したらしい.輸入ピアノの修理も始めたことがきっかけでピアノ製作にも手を広げた.それから他の木簡とか金管とかも作るようになったのは周知のとおり.その流れで,電子オルガンの製造に取り組み,シンセサイザーのような電子楽器の時代になると,その製造に必須の中核技術であるLSI製造に手を広げていった.その流れでPC製造をしたもののあえなく撤退.転んでも只では起きずとばかりに,この技術をルーター製造に生かして,リモートワークで大ヒットになったのは記憶に新しい.今やネットワーク関連機器メーカーとも言えます.

因みに,ピアノの製造で合板加工のノウハウが溜まり,それをもとに家具を作ったことがきっかけで,一時は住宅設備メーカーとしても有名だったけど撤退.でも,それがきっかけで軍からプロペラ(木製)の製造を要請されたそうです.ところが,これも敗戦で撤退を余儀なくされたことがきっかけで,転んでも只では起きないとばかり,エンジン製造に舵を切り,今や世界的なオートバイメーカーになった.この有名な話にはまだ続きがあって,下手に解説するよりも正確なところは上述の記事をどうぞ.因みに,FRPの製造ノウハウでプール作ったのは聞いてたけど,それがきっかけで浄化装置を製造したというのは嘘だとわかった.でも小型浄化装置の製造ノウハウがもとで抗酸化サプリの原料販売なんかもしてるし,本当にいろいろ味のあるメーカーです.

話が思いきり逸れてしまったけど,下書きもないブログなんてこんなものとご勘弁を.言いたかったことは,いろいろな分野に挑戦しているメーカーは失敗することもあるけど,それを糧にして成長しているんだなということ.まさに,実験計画そのものだなと思います.

それでは.

統計的問題解決研究所

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