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統計リテラシーと統計思考

統計学

このブログでは「統計リテラシー」という言葉を使ってきました.その名を冠したセミナーなどを実施していて今更なのですが,ここのところ,改めて「統計リテラシー」とは何かと考えています.Googleで『統計リテラシー』と検索すれば,おそらくトップに総務省統計局の『なるほど統計学園高等部』 がヒットすると思います.私見ですが,ここに書かれているのは,統計リテラシーというよりも,むしろデータリテラシーと呼ぶべきものです.試しにこの文章の「統計」を「データ」に置き換えてみてください.なんかしっくりきませんか?

「データは事実をできるだけ客観的に捉えられるように作成されたものでなければなりません。また、データを利用する際は、そのデータが意味することを正しく読み解かなければなりません。」

「統計」は江戸時代には存在した日本語で,統べる+計る(計測して一つに括ること)がその意味するところです.エクセルのワークシートがイメージです.『統計的問題解決入門』にも書いたことですが,杉先生はStatisticsの訳語として「統計」はふさわしくないとお考えだったようで,p119に載せたような新漢字まで作られたとのことです.そもそもデータそのものを意味した日本語の「統計」に「誤差を扱う数学的手法」の意味がその後に加わった経緯で,文脈によって意味するところが違うというこの混乱が今に続いているのです.日本語では「人口統計」でデータそのものも指すし,人口統計学の意味にもなりますが,英語ではpopulationとdemographyという別の言葉なんです.閑話休題.

「なるほど統計学園高等部」には続いてこのように書いてあります.

統計から的確に情報を読み解き、合理的な意思決定のために余すことなくその力を活用することこそ、情報化社会を生き抜く、「統計リテラシー」なのです。

「統計から的確に情報を読み解く」ことと「合理的に意思決定する」ことが「統計リテラシー」なのだと解釈できます.前半は「データから的確に情報を読み解く」ことと理解できますが,この能力は統計あるいはデータ分析そのものです.早稲田大学には文系の学生向けに「統計リテラシーシリーズ」という統計学の講座があります.真偽は定かではありませんが,わざわざ「統計リテラシー」と命名したのは学生に格好良く見てもらうためでしょうか?

他にもGoogleの検索に上がってきた1ページ目のリンクを辿れば,いろいろな統計リテラシーが語られています.このように「統計リテラシー」の意味するところが世間一般には少々曖昧であるわけですが,共通しているのは,統計は統計リテラシーの十分条件であるかのように定義されていることです.一方,私がこのブログで使ってきた「統計リテラシー」はこの考えとは少し違っていて,「なるほど統計学園高等部」の例で言えば「合理的に意思決定する」というところにポイントを置いています.この部分を強調することで「統計」と「統計リテラシー」とを区別し,両者が協働してデータサイエンスとなるという考えです.
統計リテラシー=統計学+意思決定
データサイエンス=統計学+統計リテラシー
と言う違いです.

即ち,データから情報を正しく抽出する「統計学(統計分析)」と,その情報を正しく理解し推論して行動を導くことは別の能力であると考えています.もちろん,「統計学」は「統計リテラシー」を実践するためには必要な知識ではありますが,「統計リテラシー」の理解と推論の能力という側面も強調したいと思います.因みに,この考えは英語版Wikiの説明ともほぼ同じです.

Statistical literacy is the ability to understand and reason with statistics and data. (統計リテラシーとは,統計学とデータをもとに理解し推論する能力です.)

個人で好きに定義すると混乱を招くことを懸念して,この理解と推論の能力を,このブログでは今後は「統計思考」という言葉を主に使っていこうと思います.その上で「統計リテラシー」は,冒頭の図に示したように,その両者の共通領域として「データから抽出された情報をもとに意思決定して正しく行動する能力」と定義します.「データ分析」あるいは「統計分析」と「統計思考」とが合わさった能力が「統計リテラシー」と言っても良いかもしれません.合わさったと言っても,冒頭の図に示したようにORではなくANDです.ですから,統計を知らないと「統計リテラシー」を実践するのは困難ですが,統計を知らなくても「統計思考」できます.因みにORが「データサイエンス」です.

「統計思考」という言葉は,既に多くの書籍の題名にもなっていますが,厄介なことにやはり色々な「統計思考」があるので注意が必要です.私の知っているところでは,篠原拓也(2018)『できる人は統計思考で判断する』三笠書房は思考法寄りのビジネス書,三中信宏(2018)『統計思考の世界』技術評論社は先生の講義ノートとして統計学寄りの専門書,水越孝(2014)『統計思考入門』プレジデント社はマーケティング分野におけるデータ分析のためのよくある実用書です.noa出版(2014)『活用事例でわかる! 統計リテラシー』noa出版もよく構成されていますが,統計リテラシーというよりは統計分析の本です.少し古いところでは,神永正博(2009)『不透明な時代を見抜く「統計思考力」』ディスカヴァー・トゥエンティワンは基礎的な統計学の解説もなされていて,私の思う「統計思考」に一番近いような気がします.

SNSのようなインターネットサービスの隆盛を背景に,近年私たちの情報伝達やコミュニケーションのあり方が変わってきています.そこには,本来は私たちに幸せをもたらすはずのそれらのサービスで,多くの人が不幸せになっているという現実があります.私たちの生物としての進化が時代の変化に追いつかず,結果として何らかの能力が現代の私たちに欠けてしまっていることがその理由の1つではないでしょうか.その能力こそが「統計思考」です.ここで改めてこんな話を書いたのも,これからこのブログでは時折「統計思考」について書いていこうと考えているからです.このため今まで「統計リテラシー」として書いた記事のkeywordを「統計思考」に変更し,今後はこのkeywordを使っていきます.「統計学」のkeywordも「統計分析」というkeywordに変更した方が良いかもしれません.

本日は,面白くもないことを書いて恐縮ですが,一度ちゃんと書いておかないと自分自身で混乱してしまうのでご容赦ください.この続きは次の機会に書く予定です.

本日のところはここまで.

後日の追記.
いろいろ考えてやはりタグは「統計リテラシー」に戻すことにしました.

統計的問題解決研究所

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