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初JMP

JMP覚え書き

良い天気に恵まれた新年でしたが,明日は寒の入りということもあって,だんだんと冷え込んできました.まだインフルエンザも流行っているので,皆様もお体に気をつけて仕事始めをお迎えください.

インフルエンザといえば,昨年のブログは会社のインフルエンザ対応マニュアルに「罹患の疑いあるときは早期に医療機関を受診させること」などとあるのは合理的でないなどと書いて締めくくりましたけれど,私は日本でやっていることがなんでも非合理的だなどとは思っていません.ですが,日本的なやり方は検証する必要があると考えています.本日はその話を.


インフルエンザの合理的な対策は何かといえば,ワクチンの接種の一択です.そもそも免疫力って総合的に強いとそれによる弊害も起きたりします.免疫力を高める生活習慣とか食事とかを否定するつもりはありませんが,普通でありさえすればいいんです.ウィルスに対する免疫力だけを強めるのがワクチンなのですが,かつて日本は小学生を対象とした強制的なインフルエンザ予防集団接種を実施していた世界的に珍しい国でした.強制接種は1994年に任意接種に切え替わって行くのですが,その契機となったのが有名な「前橋レポート」です.前橋ってあの群馬県の前橋市です.正式には「ワクチン非接種地域における
インフルエンザ流行状況」という100ぺージにも及ぶ報告書で,前橋市インフルエンザ研究斑が1987年1月31日に発行しています.このレポートではワクチン接種の効果に疑問を投げかけていて,結論として以下のように書かれています.

以下引用
 健康学童への集団強制接種によって,社会をインフルエンザから防衛するという,我国独自のポリシーには,多くの疑問がある。明確な根拠を欠くまま,従来のやり方に固執するのは賢明ではあるまい。
引用ここまで

要するに,このレポートではワクチン接種は効果なしとされたのです.30年以上も昔のデータなのですが,今だに世の中のインフルエンザワクチンには抵抗ある方の根拠になっているようです.

このレポートにはデータの取り方とか,そもそも解釈の仕方がおかしいとか色々と問題が指摘されているのですが,少なくともこれだけのデータを集めておきながら統計分析がされていないのはおかしいと思います.もちろん,報告書には多くのグラフが掲載されています.一見すると,あたかも分析されているようには見えますが,いわゆる記述統計の範疇にとどまっています.当時の群馬県では,市によってワクチン接種の方針が異なっていたのですが,この社会環境を使ったデータが取得されているのですが,残念ながら詰めが甘いのです.

例えば,1984年度のデータとして,非接種地区の前橋市(対象 25122人)と接種地区の高崎・桐生・伊勢崎市(対象45327人)との平均罹患率を比較しているのですが,その差は2.2%にすぎないことが報告されています.2.2%が大きいのか小さいのかということよりも,その差が有意であるかが重要です.このことに加えて,要因効果を検証するためには,何を差とするかも考察すべきです.前橋レポートでは,例えれば製造プロセスの良品検査で処理の有無の効果を検証するために,それぞれ異なる処理が施された二台の装置の良品数の平均を比較するようなことをしています.そうではなくて,一台の装置で処置効果を推定するための実験をすべきです.あくまでも要因の有無による差を比較すべきことを念頭に入れ,共変量は極力小さくするよう工夫すべきです.

とはいえ,人間が対象ではなかなか意図的な実験をするのも難しいものです.ところが,この場合,自然実験のようなデータが取れていることがポイントです.前橋市では全員に強制接種が原則でしたが,ワクチン接種の当日に体調不良等で日接種だった生徒が一定数いるのです.もちろん,その中には「ぜんそく」等のワクチン接種を忌避しなければならない疾患を抱えていた生徒もいると思うので,そのことは考慮すべきです.このことはレポートでも指摘されていますが,ワクチン効果を検証するのですから,処置の有無を説明変数とした仮説検定などを使った客観的な考察をまずは実施すべきでした.

せっかくなので初JMPしてみます.群馬県は地域によって交通事情が大きく異なるので(安中市とか好きですけど),地域という共変量の影響をできるだけ小さくするためにも,データは接種地区から前橋市のみを取り出します.また,対象群は非接種者であり,実験群としては2回接種者のみを選び,1回目のみの接種者はデータから外しました.前橋レポートから読み取ったデータは,このようになっています.

「分割表」の赤三角から「度数」「期待値」「セルのカイ二乗」のみにチェックを入れています.「二変量の関係」ではデフォルトでカイ二乗検定が実施されているので瞬間で結果が出ます.2X2のクロス表では「Fisherの正確検定」のレポートも出力されるので,それも合わせて冒頭に示しました.

インフルエンザワクチンの効果は統計的に有意であるということは直ちにわかりましたが,強制接種については,副反応のデメリットや費用などその他の諸事情とも鑑みて社会的な効用の観点から判断していくべきです.とはいえ,ワクチンに反対の立場から,インフルエンザの強制的集団予防接種が「世界でも珍しい」という論調は,日本のやっていることは非合理的だという考えが根底にあります.日本でしかやっていないことは,確かに非合理的なこともあるでしょう.ですが,その効果を科学的に検証していけば,世界に貢献できることがたくさんあるはずだと思っています.但し,検証しなければダメです.

それでは本年もよろしくお願いいたします.

統計的問題解決研究所

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