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大掃除と最適化

覚え書き

今日から12月ですね.12月と言えば師走.師走と言えば大掃除を想起するのが日本人です.新年早々を塵一つなく迎えたいという願いの顕れでしょうか.何かと忙しい年末にわざわざ大掃除しなくとも,新入学・入社を期に引っ越しする際に不要なものを捨てたりすることが多いでしょうから,大掃除をするならば3月のほうが合理的のような気もします.米国ではスプリングクリーニングといって大掃除は春と決まっていました.これは冬の間の暖房(石炭ストーブや暖炉など)の汚れをシーズン終了を機に家中を掃除したことの名残です.大掃除とまではいかないけれど,今でも春先になると机の上の整理・整頓をしたくなります.

という枕を置いて,以下強引に問題解決に繋げてみます.

『オトナ女子の整理術』新星出版社編集部 (編)という本を何気なく読んでいたのですが,気になったことが書かれていました.この本そのものは新社会人になる若い女性向けのマナー本とでもいいましょうか,30分もあれば読めてしまう本ですが,その中に「整理と整頓の違い,わかりますか?」というコラムがあって次のように書かれています.

整理は「いらないものを処分すること」,整頓は「必要なものを分類&片付けて整えやすくする」こと
 

この定義には少し異議があります.私の考えでは,整理は見栄えを良くすることを第一義とし,整然と揃えるための行為です.真っ直ぐに並べたり角を揃えたりといった見た目だけでなく,分類や分別もこの範疇に入ります.「整理」の理は道理の理であって曲がらず真直ぐという意味です.エントロピーを下げると言い換えてもいいかもしれません.一方,整頓は素早く作業できるということが第一義で,例えば,ものを所定の場所に戻したりする行為です.ですから,分別するのは「整理」ですが,それを廃棄するのは厳密にあは「整頓」です.ゴミ箱の中が所定の場所というわけです.整頓の頓の字に注目してみて下さい.仏教で修行の過程を経ずに直ちに悟りにはいることを頓証菩提と言いいますが,頓は直ちにと言う意味です.薬の頓服なども症状が出たら直ちに飲む薬のことです.頓服薬でない場合は,食後とか食間とか症状に関係なく飲む薬として内服薬を出されますが,こちらは口から導入するという意味なので,対にするならば外用薬でしょうか.閑話休題.

この本ではいろいろなケースについて整理か整頓かの例を示して,読者の理解を促していますが,書いた人が混乱しているようで,これを読むとむしろ混乱します.例えば,この本で「整理」の例としてあげているのは以下の行為です.
1.書類をいるものといらないものに分ける
2.机の上にあるものをとりあえずダンボール箱に移す
3.必要のない名刺を捨てる
4.終わった仕事の資料で,残しておくものと捨てるものを分ける
5.外出後にかばんの中を整理し,いらないものを捨てる

分別する行為,言い換えればエントロピーを低減するのが「整理」という私の定義に照らして上記の例を判定してみると,1と4は確かに「整理」です.ですが,3は必要性によって分類する行為は「整理」ですが,不要な名刺を保管せずに捨てる行為は「整頓」です.因みに,5は本当にこう書いてありました.整理するならば「整理」だろうと思うかも知れませんが,これは「整頓」です.不要なもの満載でも整理されている鞄はあり得ます.2では,机の上が綺麗にみえるならば「整理」とも言えますが,移動しただけで分類されていないのですから,「整理」とはいえません.部屋の片づけをする際に,とにかく一切を箱に詰め込むという人がいまして,彼曰く「何か探し物があれば必ずその箱に入っているから早く探せる」と豪語していましたが,ある意味でこれも「整頓」かもしれません.

一方「整頓」の例としては次の例があげられています.
6.ファイルのサイズを合わせて並べる
7.メモをテーマごとにA4の紙に貼る
8.終わった案件の書類を処分する
9.机の引き出しに仕切りを入れて,文具を取り出しやすいようにしまう
10.帰る前に机の上をざっと片付ける
11.本棚の本を分類ごとに並べる
12.パソコンのファイルをテーマごとに分類する
13.使った資料を棚に戻す

分別して「整理」した後に,それを所定の位置に置く行為が「整頓」,言い換えればアクセス速度を向上させるのが「整頓」という私の定義に照らせば,これらの例は確かに「整頓」ですが,大きさで分類する行為などは「整理」でもあります.大きさの順に並べることの目的が見栄えなのであればそれは「整理」ですし,必要なファイルを探しやすくするのであればそれは「整頓」です.また,仕切りを入れるということの効果はものに所定の位置を与えるということで「整頓」で間違いありませんが,仕切りの効果は見栄えを良くする「整理」にもなっています.本を分類する作業は「整理」ですが,分類ごとに並べると大きさや色で揃わないことになるので見栄えはよくなリませんので,探しやすくなるという点からは「整頓」で正解です.

「整理」と「整頓」はともにシステムの状態を変化させる行為と考えることができます.この場合,「整理度」と「整頓度」という数値特性でシステムを記述して,これらでシステムを多目的最適化することも可能です.この場合,例えば,机の上の状態(モノの位置)を最適化するとして,どのようなデータを取ればよいでしょうか.「整理度」であれば画像処理でモノの並びの直交度等を計算して数値化したり,「整頓度」のほうは人の位置からのものの重心位置までの距離の積算値,あるいは何らかの作業を仮定した距離指標を画像計測してもいいでしょう.でも,両者の定義は上述のように人によって曖昧ですし,仮にわたしの定義によったとしても数値化には主観が入ってきています.しかも,おおよそのところ両者は相関があるといえるので,そもそもこの二つを独立した特性と看破することが困難です.最高に整理された状態が作業効率が最大とは限らず,逆もまたしかりなので,多目的最適化が必須であることは間違いありませが,主観的特性では最適化の数値目標が不明確なので,どの状態が最適なのか決めるのが困難です.

こういう正体が良くわからない主観的特性を最適化するときの戦略の一つとして,フルモデル(二次までの交互作用と二次項をすべて)でカスタム計画を作ることがあります.異論はあると思いますが,わたしはこの場合の最適化基準はI最適でいいと考えています.その上でまずは実験し,そのサンプル(今の例では画像)から可能な限り数値を引き出すことを試みます.要するに実験が先で特性は後から考えるという方針です.最初から計測手法を限定せずに,あらゆる特性の候補を立てます.もちろん,実験単位が製品であるような場合に限ります.机の状態であれば画像を残しておいて,後からありとあらゆる画像計測を実施することになります.これら特性の候補についてモデリング,最適設計を繰り返して,意味のある結果が現れるかを考察しますと,思いがけないトレードオフが現れたりすることがあります.フルモデルは実験数が多くなるのが難点ですが,(少なくとも二次までの)交絡はありませんし,何が特性となるかわからないという状況ではとても有効です.

この人は考えるより先に手を出すのが好きだなと思ったときにはフルモデルの戦略をお勧めしています.一方で,考えることが好きで慎重なタイプの人には主効果のみで計画を立てたり,決定的スクリーニングを先行する戦略を指導しています.ですから,良いコンサルテーションにはまずその技術者のタイプを見抜くことが大切です.

いささか強引で落ちはつけられませんでしたが,今週はこれにて.

統計的問題解決研究所

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