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Global OptimizationとTotal Optimization

覚え書き
先日のSUMMITでの発表についてのアンケート結果をSAS社からフィードバックしていただきました.少々詰め込みすぎた内容で皆様にうまく伝わったかを心配していましたが,思ったよりも好意的な反応を頂けたようで安心しました.ほとんどのコメントが「解から理解へ」というメッセージに言及してくださっていて,多くの皆様に賛同して頂けたことが何よりも嬉しいですね.

頂いたコメントを拝見して,Global OptimizationとTotal Optimizationとについての違いを(おそらく)意識していない方がおられることに気づきました.わたしの発表でもここらへんについては曖昧でしたし,巷でも厳密に両者を使い分けるケースはむしろ稀です.ですが,異なる意味を持つ概念に異なる言葉をつける必要があるのは「可視化」と「視覚化」との使い分けが必要なのと同じことです.そこで,この場で今一度説明します.
まずは言葉を定義します.単一の最大値や最小値が存在する同じ実験空間内のシステムが複数寄せ集まった拡大システムを考えます.この拡大システムは個々のシステムの実験空間の拡張空間になります.英語では前者をLocal System,後者をGlobal Systemと呼び,このときのそれぞれのシステムの最適化をLocal Optimization,Global Optimizationと定義します.厳密にはLocal Systemには単一の極大点が内包されていると考えていいでしょう.
ここまでは明快なのですが,これを日本語に訳すときに混乱が生じます. Localを局所的とするのはいいとして,Globalを全体と訳すとこの後でお話しするTotal Optimizationとの区別がつきにくくなってしまいます.そこでGlobalには大域的という訳をあてます.この日本語訳であればLocalとGlobalとでは基本的に同質の実験空間に存在するものということが明確になります.
一方,異質なシステムが寄せ集まった複合システムを考え,それらの最適化も考えられます.例えば,紙ヘリコプターを例にとると,紙ヘリコプターの製造メーカーが材料の紙の製造も一緒にしているとします.このとき,飛行時間の最適化の設計因子の一つである紙の厚みは紙の製造工程の特性(の一つ)になります.ですから,このメーカーが紙ヘリコプターの設計と紙の製造工程を総動員して目指す最適化が全体最適化で,英語ではTotal Optimizationとなります.個別のシステムの最適化はいわゆる普通の最適化なので特定の名称はついていませんが,全体最適化を意識して部分最適化あるいは個別最適化と呼ぶことがあります.部分最適化を英語に訳すとPart Optimizationになるのでしょうか.聞いたことはありませんけど.
実験空間と抽象化すると大域的最適化も全体最適化も同じことをしているにすぎませんが,重要なことは大域的最適化では同じ特性が隅々まで行き渡っているのに対し,全体最適では様々な特製のごった煮であるということです.別の見方をすると大域的最適化は全体最適化の一つであるということもできます.
大域的最適化はCAEソルバーによるシミュレーション実験と相性が良く,最適化ソフトと連成してGA(遺伝的アルゴリズム)法やSA(シミュレーテッド アニーリング:焼きなまし)法,粒子群法などの各種アルゴリズムで最適化を目指します.これが実実験の場合となると山あり谷ありの地形を探検するようなもので,真の最適化に辿り着くのはなかなか困難です.ここでものを言うのが技術者の勘と経験です.
一方,全体最適ではそれを支配するモデル式を作成するために最大の問題となるのが壁の存在です.例えば一つの企業をシステムと捉えれば,企業内にはそれぞれ異なったミッションを持つ組織が個別システムとして共存しています.それぞれのシステムの最終的なゴールは共有されているものの,ときとして利害が対立することがあります.全体システムで収益や顧客満足度の最大化を目指すには,個別システムの最適化に先駆けてそれらの利害関係を調整することが必須なのです.この調整に必須となるのが交渉です.このことは一般的な製品や製造工程のシステムでも同じことです.この場合の交渉を本書では技術的交渉と呼びました.
勘と経験それに交渉といった人間固有の能力が必要になることがとても興味深いですね.統計的問題解決ではこれら人間固有の能力に頼るのではなく積極的に活用するという立場です.
それではまた.
統計的問題解決研究所

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