ソフィーの選択(「選択の科学」の続き)

覚え書き

原稿でカットした内容を次回紹介すると書いておきながら,話を引き延ばして申し訳ないのですが,今回は「選択の科学」についての続きにします.早く書いておかないと忘れてしまうということがその理由です.おそらく現時点でこのブログを見ている人はいないはずですが,書籍がリリースされればこのブログに来てくださる方もいらっしゃるでしょう.その方々に過去に遡っていただくのも申し訳ないので「JMPではじめる統計的問題解決」の内容に関することは本書リリース後に書き始めることにしました.

というわけで「選択の科学」です.自宅にはTVがないので知りませんでしたが,NHKで取り上げられて人気があったそうです.TVで紹介されたりすると,どうしても製作者のバイアスの影響を受けてしまうので,何事もまずは自分で考えたいという主義が次第にTVから遠ざかっていった理由です.この意味では,著者の略歴や表紙などもできるだけ見ないようにして読み始めるようにしています.と思いつつも表紙だけは見ないわけにはいかないので,「選択の科学」のように著者の写真にひきこまれたりもしています.

表紙や本文のレイアウトが読者に与える印象は強いです.特に著者の見た目が良ければ注目も浴びます.ケリー・マクゴニガル(2012)『スタンフォードの自分を変える教室』大和書房,などが印象に残っています.先ほどAmazonで確認したら,中表紙のような地味な表紙なので,この著者の写真は帯だったのかと今更ながらに気づきました.出版社のサイトでは帯のついた写真が見れます.この本の英語版の表紙がKelly McGonigal(2013),The Willpower Instinct: How Self-Control Works, Why It Matters, and What You Can Do to Get More of Itでしたので日本語版との違いが際立っていました.

パラメータ最適化設計もある意味では科学的に選択をしていると言えるので,その重要性は常々考えていました.幾つかのヒントを得られたので,「選択の科学」は読んでよかった本でした.前半では長いこと疑問だったことの答えを見つけられました.それは,人が対処できる選択肢の数はその性質によって変わるという説です.これは先にお話ししたことの繰り返しになりますが,人が一度に扱える選択肢の数の上限は7と言われているわけですが,ロングテールではそうでもないと米国でのスーパーマーケットの体験から感じていました.この説では一つひとつの選択肢の重要性が高くない場合では,徹底的な検討をする必要はないので選択肢の多さをむしろ楽しめるというわけです.しかもその場合,専門知識が多すぎる選択肢へ対処する能力を飛躍的に向上させるということです.例えば私の場合,車に乗るとすればFRに限るので,FF車は真っ先に対象から外します.そうすると選択肢は激減してしまうのです.ある程度の車についての専門知識が選択の負荷を低減してくれるわけで,これは定石を知り尽くしたチェスの名人が次の一手を打つ場合と同じとのことです.

 後半には,統計的問題解決にとっても重要なことが書かれていました.一つは「ソフィーの選択」(ウィリアム・スタイロン(1991)『ソフィーの選択』新潮文庫)です.この有名な小説はご存知の方も多いと思います.(映画もありますが原作の邦訳はなんと絶版なんです.世の中ゴミのような本が溢れているのに,何か間違ってるような気がします.)ネタバレすべきではない小説なので詳細は書きませんが,「選択の科学」ではルイス・ハイド(2002)『ギフトーエロスの交易』法政大学出版局から引いた価値についての次の分類を紹介しています.それは絶対的価値(worth)と相対的価値(value)との分類です.前者が,自分が大切にしていて値段がつけられないものに対する(本来備わっている)metricであり,後者はあるものを他のものと比較することによって導き出せるmetric,ということです.(metricという言葉は私が勝手に使っています.)その分類にときとして私たちは対峙せざるをえないのです.例えば,人の命をworthとvalueのどちらかのmetricにより幾つかの選択肢の比較を余儀なくされる状況があるということです.

 私は今まで人生の問題も特性値の指標をうまくとればパラメータ最適化設計で解決できるのではないかと(自覚はしていませんでしたが)考えていた節がありましたが,それは間違いと気づきました.パラメータ最適化で扱えるのはあくまでも特性のmetricがvalueである時に限ります.それがworthである場合にはせいぜい参考にするくらいではないでしょうか.何事もできることとできないことを見極めることが大事です.とはいえ,worthをmetricとした場合の最適化については研究課題として今後深く考えてみたいと思います.

もう一つは「選択の代償」です.選択は痛みをともなうということです.「選択の科学」ではある事例で選択のための情報開示と選択権の有無で三つのシナリオ(情報なし,選択権なし)(情報あり,選択権なし)(情報あり,選択権あり)で実際の調査データをもとに考察しています.

わたしの事例指導のスタイルはクライアントに選択肢を与え,あるいは見つけさせて,その上で選択権は委譲するというやり方です.それはよくある事例コンサルテーションでのやらされ感を低減し,成功体験をより強く感じてもらうためです.とはいえ,この本を読んで人によっては不必要なストレスを与えていたのかもしれないと気づきました.ある意味自らも紋切り型のコンサルテーションの罠に陥っていたようです.必要な場合は選択権を奪うこともありかもしれません.このためには,やはりクライアントとの対話が重要であると思っています.

まだブログ書きの練習中ですので,まとまりのない文章をご容赦ください.それではまた.

統計的問題解決研究所

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