過去の投稿に画像リンク切れ多数ありご迷惑おかけしています.

陰謀論と統計リテラシー

統計リテラシー

SASがどうとかという記事を目にして,あのSASかと思ったら,特殊空挺部隊(SAS:Special Air Service)というイギリス陸軍の特殊部隊の方でした.最近は,SASだけでなくスペツナズとかも目にするようになって,昔熱中したBattle FIeldというFPSゲームを思い出します.あのゲームでは,シナリオによってアメリカ陸軍のSeals対中国の人員解放軍や,SAS対スペツナズが戦闘したりする設定でした.現在も続編が出ていてつい最近6代目がリリースされたばかりです.

このような世相を反映して,最近は陰謀論も目にすることが多くなりました.Wikiでは「他に妥当な説明があるにもかかわらず,邪悪で強力な集団による陰謀が関与していると断定するものである」と説明されてますが,これは少し違う.妥当な説明がなくても,何らかのイベントの背景に特定の人物あるいは集団の意思があると断定することを陰謀論と言います.

陰謀論に陥る人は統計リテラシーのない人です.あのFeynman先生のQuoteで有名なのがあります.意訳してみるとこんな感じです.「今夜,驚くべきことが起こりました.駐車場で何が起こったか信じられますか?なんとARW357というナンバープレートをつけた車を見たんです.」

ARW357というナンバーに何か物理学で重要な意味があるかのように勘違いする人も多いのですが,ようするに,何百万枚もあるナンバープレートのうち,今夜その特定のナンバープレートを見たという偶然を先生らしく戯けているわけです.あちらのナンバープレートはアルファベット3文字+3桁の数字ですから,ARW357というナンバーを見る確率は,26^3に10^3桁を掛けたおよそ1750万になります.

何か特定のイベントが起こったとき,人はそのイベントのオッズを指標として重要性を判断します.そして,そのオッズが小さいつまり珍しかったとき,人はその背後にある因果関係を探します.その因果関係を説明するのに都合が良いのが陰謀論であり,宗教なんです.

Feynman先生のQuoteのポイントは,今私たちがみているもの遭遇しているイベントは全て珍しく,驚くべきことなんだということです.そこには何の意思も介在していません.ですが,多くの人は「起こったオッズ」に気を取られ「それが起こらなかった数千万の可能性のオッズ」は考えない傾向があるんです.この場合なら,その他のナンバープレートを見るオッズもARW357を見るオッズと同じことを想像しなければいけません.

例えば,地球にはさまざまな生命があって,それは奇跡であると考える人は多いかもしれません.確かに,宇宙にある銀河系,その中の太陽系に複数の惑星があって,更にその世界で数十億の化学組成の組み合わせが生命の源となり,それが今の人類へと進化している...というストーリーのオッズを考えれば,非常に小さいでしょう.そこに超自然的な存在を感じても不思議ではありません.これが宗教であり,インテリジェントデザインと言葉を変えた偽科学の正体です.

そうではなくて,今私たちが生きているのは多くの可能性の1つに過ぎないと考えます.私たちは地球が生命を育む環境であるから,それをオッズとして見積もることができますが,そうでない他の可能性の一つであれば,そもそもオッズを計算するなんてこともできません.「我オッズを計算する故に我あり」と言ったところでしょうか.

統計リテラシーというよりも数学リテラシーあるいはnumeracy(ニューメラシー)の重要性がここにはあります.Feynamn先生は,イベントの出現確率を適用して,試行の統計的特性を理解するロジックにおけるよくある欠陥を指定しているのです.さまざまなニュースや広告は,私たちのこの思考の欠陥をついてきます.私たちは,何が確率変数で,その挙動をモデリングして予測することで,その欠陥を補強することができます.この際,イベントの可能性をどのように定義するかが重要になります.

今日は少し抽象的になったので,忘れなければ次回もう少し具体例をあげてみます.

それでは.

統計的問題解決研究所

コメント