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ワクチンは我が身のためならず

JMP統計リテラシー

JMPや実験計画だけでなく,統計リテラシーを講義することがあります.新人研修の一環であることが多いけど,年配の方も一緒に聞いていただくこともあって,自分としては楽しみなセミナーです.データサイエンスの講座と違って,対象の間口が広くする必要があって,身の回りから題材を取る必要があるのが少し大変です.根底には統計がある題材を選んでいるけど,表面的にはメディア・リテラシーのセミナーのようになってしまう.

どうせならメディア・リテラシーも兼ねようと,古いネタは入れ替えるようにしてるので,日常的にStat Spotting(統計情報の定点観測)が欠かせません.ネットでニュースを読むときは,いつもこのネタ探索モードに入ってます.最近だと,ワクチン関連のニュースが多いけど,今週はコロナの集団免疫についての研究結果がリリースされました.統計リテラシーのセミナーでは,原典にあたってその信頼性を確認せよ,などと言っている手前,原点を探ると直ぐにこの文献に行き当たりました.

Community-level evidence for SARS-CoV-2 vaccine protection of unvaccinated individuals

アブストラクトを読むと,こんなことが書いてある.

Pfizerワクチン接種率が20パーセント変化する毎に,ワクチン未接種の16歳未満の子供のコホートにおいて,陽性率がおよそ1/2に減少と関連した.

あれ?ワクチンによる集団免疫って摂取率70%くらいないと獲得できないんじゃないの?もし,これが本当なら,日本ももうすぐ効果が現れてきますよ.今1回接種者が12%ですからね.

この論文はNature Medicineに掲載されているから,信頼性には問題ないだろう.Pfizerワクチンに限定しているのはもちろん,自然免疫との交絡を最小限に抑えるために,2020年3月1日から2021年3月9日までの陽性者の割合が10%未満の177コミュニティのみを対象にデータ取得していたり,ワクチン接種者と陽性者の年齢分布にバイアスがないことを確認していたり,抜けはないですね.これを読むだけで勉強になります.

結論として,ワクチン接種が接種した本人を保護するだけでなく,コミュニティ内のワクチン未接種の16歳未満の子供をも相互保護していることが判明したと.ワクチン反対派の人はこれを読んでどう思うのだろう.ワクチン接種は自分のためだけではないと言うことですね.ここらへんの捉え方は,国によってかなり違いそうです.この研究は177のコミュニティを対象としたと書かれてあるけど,国はどうなんだろ.斜め読みではわからなかった.

データ分析としては,MATLABを使ってます.目的変数が陽性率の対数オッズ比で,説明変数がワクチン接種率の変化にしてモデリングした結果,信頼区間を考慮してもパラメータ推定値(傾き)は強い負で有意になります.

因みに,このp値はブートストラップ法で計算されてるようです.そういえばJMPはブートストラップってProのブートストラップ森と,あとあまり知られてないけど「説明変数のスクリーニング」に使われれるだけですね.JMP16ではどうなってるんでしょ.

ワクチンについては正直懐疑的な考えもあったけど,これを読んで納得できました.そう,ワクチンって自分だけのためではないんですね.とはいえ,自分で手を動かして検証するのが統計リテラシーには必須です.そこで,手元にあるデータで何か検証できることはないかと考えてました.

データは首相官邸にあります.って,これtableauじゃないですか.いずれにしても,こちらでは見ることしかできないのでスルーして,政府CIOポータルダッシュボードからデータを引っ張ってきます.

これで医療従事者のワクチン接種率はわかったので,後は医療従事者の感染者数を付き合わせます.すいません.このデータは少し前にブログネタになるかとダウンロードしておいたのですが,出所がいますぐに出てきませんでした.

それでグラフにしたのがこちら.

たまたまかもしれないけど,先の論文とは矛盾はしてなさそうです.そう言えば,最近は病院で看護師が感染とかあまり聞かなくなったような.もちろん,院内感染はまだ発生しているけど,医療関係者だけのコミュニティではないからね.

「情けは人のためならず」って言うけど,「ワクチンは我が身のためならず」なんだなとJMPの前で納得した日曜日でした.

それでは.

統計的問題解決研究所

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