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シェイクスピアとニュートン

覚え書き

リモートワークを導入しているところも増えてきたようですが,みなさんの職場ではいかがですか.仕事の量は変わらないとはいえ,通勤にかかっていた時間が浮くだけでなく,疲労やストレスも減るのはありがたいことです.その他にも,日常的な様々な雑事から解放されたと感じている方も多いのではないでしょうか.自由に使える時間が増えたからと言っても,毎日のニュースを見ていると不安で,何をするにも手に付かないという人も多いかもしれません.私もコロナ関連の論文を読んだりデータ分析をしたりしていますが,他の方々がいろいろやられているし,同じことをするのもつまらないと感じ始めています.JMP超入門(というかJMPを使ったデータ分析超入門)の連載は続けていこうとは思っていますが,どうもその気になれないでいます.逆境にあっての心構えとして,少し前に良寛さんの言葉を引用したりしましたが,私のような普通の人ではあの境地にはたどり着けません.

この毎日の状況で思い出すのがシェイクスピアです.シェイクスピアの時代は,それ以前から断続的に続いてきた,いわゆる14世紀のパンデミックとも呼ばれるペストの大流行の真っ只中でした.1666年のロンドンの大火で(ノミもネズミもいなくなって)ようやく沈静化したと言われていますが,彼が亡くなったのが1616年なので,生涯ペストの恐怖に苛まれたことになります,因みに,日本の有名人だと徳川家康がこの年に亡くなってます.

1606年頃のペストによる劇場封鎖で,自宅待機のような状態だった彼が,それを契機に作風を変えていったと言われています.ジェイムズ・シャピロ (2018)『『リア王』の時代:一六〇六年のシェイクスピア』白水社はこのテーマで書かれているようです.書評を読んで知っているだけなのですが,この時代(後述するニュートンの時代)に興味があるので,一度じっくり読んで見たいとは思っています.結構な値段の本ですし,540ページの大著は研究書ともいうべく面構えでなかなか手が出ません.因みに,著者のJames Shapiroさんはコロンビア大学の先生です.時間のある今だからこそ,こういう本を読んでみたいものです.

4大悲劇のうちの2つ『リア王』と『マクベス』が書かれたのはこの時期で,これらに続く1606年から1607年に書かれた 『アントニーとクレオパトラ』は個人的には悲劇的史劇だと思うのですが, Wikiには「四大悲劇から晩年のロマンス劇への移行を示す。」などと書かれています.作風の変化がどうであるのかは専門家に任せるとして,個人的には『ソネット集』が1609年に出版されていることに注目しています.ソネットの断片は彼が若い頃から書き始めていて,30代前半にはすでに書き上げていたと言われています.それが長きにわたって出版されなかったのは,それに手を入れてる時間がなかったからではないでしょうか.悲劇を書くほうがお金になったのです.おそらく,劇場閉鎖時代に『ソネット集』の出版を考えたのではないでしょうか.ペストの流行がなかったら,『ソネット集』は日の目を見なかったかもしれません.

ペスト流行の影響を受けたということでは,同時代のニュートンも同じ境遇でした.彼は,ロンドンでのペスト流行を逃れて1665年に実家に疎開したのですが,現代の私たちはこの有名な1年半の期間を「創造的休暇」と呼んでいます.それというのも,ケンブリッジ大学における様々な日常の雑事から解放されたニュートンは,それまで温めてきた独創的なアイデアを次々と具現化していったからです.そこで実験したという部屋も現存しているニュートンリングでおなじみの「光学」の研究,後に『プリンキピア』で結実した「微分積分学」という数学手法,『プリンキピア』の第3巻で展開され,今では小学生でも知っているリンゴの木で有名な「万有引力の法則」,これらの独創的な研究は全てこの期間になされたものです.ペストの流行がなければ,現代の数学や物理学は大幅に遅れていたのではないでしょうか.

シェイクスピアもニュートンも天才だから,このような逆境でもむしろそれを糧にして偉大な業績を残せたのだ,そう言われれば同意せざるを得ません.しかし,平凡な一般人であっても,それまでの作風を変えるきっかけにはなるかもしれません.作風といってわかりにくければ仕事の方向性や態度です.私の場合,ニュートンとは比較にはなりませんが,温めている構想もあるのでそれの実現に着手しようと思っています.もちろんJMPや統計からは離れませんけれど,少し作風を変えていこうかなと.自分史上,コロナ騒動がなかったらこうはなっていなかったなと思えることを後日語れれば良いな,そう思っています.

かつて地球上では気候の変化で恐竜が絶滅し,哺乳類が台頭しました.環境が激変して,森から草原に出た猿は立つようになり,人間が台頭しました.今回も世の中が変わっていきます.おそらく,徐々には始まっていたオンライン環境を利用したリモートワーク,オンラインセミナーの流れが一気に加速すると考えます.データ分析やその活用環境なども,クラウドベースのJMP Liveのようなソリューションが台頭してくるはずです.その流れについていけるか,今が踏ん張りどころですね.

本日は戯言になりすいません.それではここで.

統計的問題解決研究所

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