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アンケート調査

覚え書き

SAS社主催の「アンケート調査解析セミナー」に参加してきました.私が日頃お世話になっている高橋先生と先生に大学院で指導を受けた川崎さんのご講演です.日科技連出版社から先日出版された『アンケートによる調査と仮想実験: 顧客満足度の把握と向上』を献本頂いていたので,それを読んで聴講したこともあってとても分かり易い内容でした.事前に聴講者を対象にデモアンケートをWEBでとってそのデータをデモ分析するというのは新しい試みです.今回の事前のアンケートにはもちろん回答しましたが,基本的にコーヒーショップにはいかないので答えようがありませんでした.コーヒーは好きですが,そもそも,あの手の店には入る気も起きません.行くならばということを想定してなんとか回答しました.分析結果の講評で,矛盾している回答者が何人かいて外れ値として除外したと言われていましたが,その中に私の回答も入っていたかもしれません.

副題が「統計的アプローチを活用してアンケートデータから提案や改善等の計画を立てる方法を学ぶ」となっています.「選抜型多群主成分回帰分析」という統計手法の提案と,それに至るまでの実践的な内容もあり盛りだくさんな内容でした.最近のJMPer’s Meetingはキャンセル待ちが常態化していますが,今回も応募者殺到で急遽二回の開催となったそうです.実はこのセミナーと出版が重なったのはたまたまなのだそうです.セミナーの企画自身は今年の最初から始まっていたそうで,出版記念のセミナーは別途開催するそうです.まだ募集は始まってませんが,日にちはもう公表されているのでここに書きますけれど,9月26日です.

セミナーの最後の質問に,高橋先生の推奨する5つのツールはどのようなソフトで描けばいいのかというのがありました.5つのツールとは,概念図,特性要因図,パス図,解析模型図,構造模型図のことで,このうち特性要因図だけはJMPで描けるとのお答えでした.私はこの手の図はソフトを使わないほうがむしろ良いと考えていますので,JMPの特性要因図を使ったことはありません.とはいえ,大昔からあった機能なので,存在は知っています.ブログ冒頭に示した「特性要因図」は分析メニューの「品質と工程」の下から二番目にあります.以前はIshikawaダイアグラムと呼んでいたと思うのですが,英語表記でもJMP14では「Diagram」になっているので,残念ながらJMPのメニューやレポートに出てくる日本人は一人減ってしまったようです.「タグチ配列」も「古典的な計画」に押しやられてそのうち消えそうですし,残るはAICくらいです.

さて,一応これでも名前だけは経営企画なので,マーケティングは多少勉強しているのですが,アンケート調査は本当に難しいと思います.アンケート調査はマーケット調査の1つで,大別して定量調査と定性調査があるうちの定量調査になります.基本的にサービス改善くらいがせいぜいで,新商品企画などのイノベーションはインタビュー調査とか行動観察調査などの定性調査でないと難しいと考えています.技術的なデータ分析とは定量,定性の感覚が違っているのが面白いです.(マーケティングでは定性調査が格上の感覚です.)

データの質が良くなければどんなに高度な手法を使っても意味がないことはいかなるデータ分析でも真理です.全くの私見を言わさせていただくと,アンケート調査で消費者の意見を集約しても,どこまでその結果が信頼できるものなのか不明なので使いどころに困るというのが本音です.医療統計などよりもアンケート調査の方が難しいと思うのは,アンケートでは回収率のような非サンプリングエラーを考量しなければならないからです.よく知られているように消費者の意見を集約するには回収率の方が重要で協力率とも呼ばれる所以です.アンケートで協力率を上げるのは至難の技です.下手に景品など提供すればそれこそデータに偏りが生じてしまいます.

サンプリングエラーであれば,統計学の教えるところによって,サンプルサイズを大きくすれば良いのですが,対象が人間ですとそう単純な話では済まなくなります.人間は統計的イベントだけで揺らいでいるのではないことは,有名なマルセル・プルーストの質問表(Le questionnaire de Proust)に答えてみれば,いかに人間が時間的に不安定であるかを思い知るでしょう.あの幕末三舟の一人の泥舟も「今日はこう思ってますが,明日はまた違うことを思うかもしれません」とどこかで言ってたように記憶してます.

実験データでも対象が時間的に不安定ですと,途端に困難になるように,一人の人間の一瞬を捉えたアンケート調査でも同じ状況です.統計学を頼みにばらつきを集約するにはかなりのサンプルサイズが必要です.アンケート調査の必要サンプルサイズは教科書通りでは,回答比率0.5(これがワーストケース)として信頼水準95%で精度を1%にとどめようと思うならば,10000人弱です.一般的な新聞のアンケート調査でもサンプルサイズが1000程度なので現実的にはありません.そこで得られた結果の精度を事後評価するようなことになるわけですが,なかなかこのアンケートはやっても意味がなかったとは言えないものです.そもそ平均人を対象にしてマーケティングが成立するのか,奥が深い問題です.

サンプルサイズを力づくで大きくするWEB調査に注目が集まっているにはこのような背景があるわけです.手軽と言っても代行業者に頼むと,10問でサンプルサイズ100人が10万円くらいが相場でしょうか.10000人であればおそらく数百万円は必要です.これには上述した人間故のばらつきは考量していませんから,おそらくそれ以上の費用をかけなければ信頼できる結果は得られないように思います.

本日は全くの駄文でしたが,研究課題が見つかりました.軽い気持ちで書き始めたのですが,深みにはまってきたので今日はここまでとします.

それではまた.

統計的問題解決研究所

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