過去の投稿に画像リンク切れ多数ありご迷惑おかけしています.

プラセボで十分なんじゃない?

統計リテラシー覚え書き

統計本の進捗は,校正も済んで「はじめに」を書き上げたところです.あとは再度校正をしつつ索引を作っていくくらいかな.今回はビジネス書でよく見かけるアンダーラインを入れてみようかなとも思ってます.時間があればですけど.おそらく10月の初めには書店に並ぶと思います.よろしければ手に取ってみてください.初めて統計学を学ぶ人を対象にしているので,JMPユーザーにどこまでお役に立てるかは不明ですが.

当初はもっと現代的に書こうとも思ってました.例えば,通常の教科書で定義されている標本分散には触れず,不偏分散として標本分散を定義したり,推定の枠組みの中で仮説検定を説明したり.このアプローチの方が初心者が躓くことが少ないと考えてます.最初に学ぶ統計学なら絶対にこの方がいいです.とはいえ,この主張がどこまで世間一般で通用するか?そこが読めません.それと,既に既存の統計の教科書を学んできた読者には,かえって混乱の元となってしまうことも心配です.それで,既存の教科書との整合をとるべく,上記の点についてはオーソドックスな解説にしました.

書籍を出版するとき,世間での評価というのは正直気になります.最近話題の『いちばんやさしいWeb3の教本』も斜め読みはしてみて,確かに不正確な記述もあるけど.ここまで批判される理由がわからない.内容もそこらのビジネス本と変わらない.(ちょっと補足.この本の内容を正しいとは言ってないですよ.クオリティはそこらのビジネス本と変わりはないという意味です.)思うに,著者が腕組みをしているイラストがよくないのかもしれません.でも,このシリーズは全ての表紙で著者が腕組みしてるし.腕組みは遺憾ですよね.ラーメン屋でもあるまいし,読者に偉そうに見えてしまってはダメだと思います.私なんかだと腕組みしてる専門家には大したことないのが多いという印象ですけど.

専門家が大したことないと言えば,新型コロナ治療薬候補のゾコーバ錠が継続審議になったけど,あの報告は「えっ?」という感じでした.統計的仮説検定で禁忌とされていることの見本のような報告でした.pハッキンングというよりはチェリーピッキングですね.多重検定などの手法にも日常的に慣れている方が多いはずだけど,何も思わなかったのか.あるいは,専門家とこちらが勝手に思っていただけなのかもしれません.

ちなみに,報告書はこれです.p55の図6のグラフを見るだけで,ウィルス量の減少効果がプラセボと有意差がないことがわかるから,3相試験(臨床試験)に移行するのもどうかな?と素人的には考えます.そういえば,エラーバーが±標準偏差になってるけど,製薬業界ではこれが普通なんですかね?目標例数 435ケース(各群145ケース)ということだから,標準誤差にした方がまだ少しはまし?とも思えるけど.

最も首を傾げたくなるのは,仮説検定で有意性が示せなかったけど,「以上のことから、本剤はワクチン接種の有無や SARS-CoV-2 による感染症の重症化リスク因子の有無 にかかわらず、無症状の SARS-CoV-2 病原体保有者及び酸素投与を要しない SARS-CoV-2 による感染症 患者に対して広く使用可能と考える。」と結論していること.100万人分の製造を完了しているそうなので,承認されなければ大変なことになるという必死な思いは理解できますが.あのデータを見れば,仮に承認されたとしても飲みたくないですね.プラセボで十分なんじゃない?

それでは.

統計的問題解決研究所

コメント