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年末雑感

覚え書き

基本的にその日に思ったことを書くブログなので,年末の話題としては相応しくないかもしれませんが,少しお付き合いください.

沢渡あまね(2019)『仕事ごっこ』技術評論社,という本があります.昭和の常識を糾弾していて,並んでいる例は少し極端かなとも思いますが,こういう会社はまだ日本には多いのかもしれません.日本の製造業の凋落が叫ばれて久しく,今年も色々なことを目の当たりにして,その感が強まった一年でした.その理由については様々に分析されていて,どこで読んだか忘れてしまいましたが,夏野剛さんが「iPodをウォークマンの類としか見做せなかった」と言われていて,なるほどと思ったのを記憶しています.


因みに,Steve JobbsがAppleに戻ってきて真っ先に手掛けたことの一つにNewtonのプロジェウトを解散したことがあります.そのとき既に,iPod更にはおそらく後のiPhoneの構想があったと言います.Newtonをご存じない方も多いかもしれません.personal digital assistantを略してPDAとも呼ばれた携帯型情報端末の先駆けで,電話機能のないガラケーといった感じでしょうか.当時はアメリカに住んでいたので,はっきりとは知らないのですが,日本ではあまり流行らなかったようです.自分には必要ないものだったのでそれほど興味はなかったのですが,投げ売りセールになっていたので思わず買ってしまったものが,未だに捨てられずおります.

脱線したので日本企業に話を戻すと,特にメーカーが低迷しているのは事実です.その理由は後からは色々つけられるので評論家にはなりたくないのですが,個人的に思うところは,そもそも電子立国などと浮かれていた時代がたまたま(日本が調子良かった)だけなのではないかということです.ですから,今の状況はアメリカと日本の会社の合理性の違いが表出しただけなのだと単純にそう思います.もちろんアメリカでもビッグ3などは凋落しているわけですけれど,国全体としてはうまく時代の波を乗り越えている感があります.日本は良くも悪くも横並びなので,どこかのメーカーが合理性に突き抜けてくれることを期待しています.そうなれば,流れが変わってくるように思います.もちろん,私たちとしてはできることから合理性を目指すべきなのでしょう.

アメリカで仕事をしていた際,日本の会社は合理的でないと感じた経験は多々ありました.例えば,多くの日本の会社では,マニュアルに則ったシナリオ通りのセレモニーとして毎年の避難訓練が実施されています.どこの会社にもこのような避難訓練のマニュアルがあるのではないでしょうか.自然災害が多い国ですから,こういった訓練はもちろん必要ですが,地震や火事の状況でシナリオ通りに行動することの意味がどれだけあるのか.各人が状況に応じて判断していくことが問われる中で,役割分担を決めておくことが果たして正しいのか.こう思ったのは,アメリカで経験した避難訓練のときでした.半導体工場だったので,色々な危険箇所と脱出経路を確認する程度のもので,事前準備なんてなかったし,各人の行動もバラバラで日本のように行列を作るなんてことも皆無でした.従業員に一度非難を経験させ,その社会実験で問題点を洗い出すことを目的として,担当者は事前よりもむしろ事後に時間をかけていました.一方,我々従業員側は,時間もかからないので業務に支障もありません.

特定の会社を比較した個人的な経験だけで,アメリカの会社は日本の会社よりも合理的だなどと判断するつもりはありません.とはいえ,そのとき以降,日本の会社における非合理性が目につくようになりました.カラード・エフェクトというやつですね.赤い色を意識すると,身の回りに赤い入りばかりが目についてしまうという認知バイアスです.

インフルエンザ発症を疑う際は医療機関を受診せよという会社がありますが,まさに非合理的判断の代表です.インフルエンザは医者に行っても治らないので,そもそも体調の悪いときに無理をするのは愚かな行為です.発症してから12時間くらいはウィルスは検出されないということもあって一説にはβリスクは60%程度と聞きます.診断確定して48時間以内であれば回復が1日程度は早くなるそうですが,そのことと引き換えに多くの人(医者やそこを訪れている患者)を感染のリスクにさらしていることも忘れるべきではないでしょう.医療機関に行くか,自宅で休養するかは各人の状況(受験生がいるとか老人がと同居しているとか)をもとに判断すべきことで,それを会社がマニュアル化するのは合理的ではないと思います.

『仕事ごっこ』にも出てくるのですが,メールの添付ファイルをパスワード付きZIPファイルで送るというよくあるやり方も非合理的です.PPAPと揶揄されていて,Password付きZIPファイルを送る>Passwordを送る>Angouka(暗号化 Protocolの略だそうです.作業効率が落ちる割には,セキュリティとしての効果は皆無です.(パスワードを電話で伝えるならばまだ意味があるのかもしれませんが.)ウィルスチェックができなくなるので別のセキュリティ問題を起こすという弊害もあります.そういえば,一般の会社に限ったことではありませんが,セキュリティ分野では首を傾げること多々あります.例えば,頻繁にパスワードを更新するように要求されますが,その際に字数や使う文字に制約がかかっていたりします.字数や大文字と小文字の英字,数字と記号を混在させなければならないというルールのもとでは,単純な総当たり攻撃では組み合わせが減るので,それだけ短時間で破りやすくなるのだとか.

でも批判するだけなら簡単と思うのです,なぜ皆が合理的でないと思うことが存続しているのかという視点が重要です.私が思うには,他のオプションを知らない,あるいは知っていても新しいスキルに手を伸ばしたくない,その暇がないということではないかと.であれば,新しいオプションを知らせ,それに移行する負荷をできるだけ低減することが肝要です.この行動原理に基づいて,実験計画やデータ分析の本を書きました.

JMPはまだ多くの会社にとっては知られざるオプションだと思います,とここで強引にJMPに持っていくのですが,セキュリティといえば「識別不可変換」はご存知でしょうか.テーブルメニューの一番下にあります.この機能を使えば,パスワード付きZIPファイルに圧縮する必要もないのですが,これでも圧縮が必要だと言われるかもしれません.そのときはCSVに変換してメールにコピペするという手もあります.今年の締めくくりには些細なチップスですが,「識別不可変換」を実行する際に列名を選択しておくと,冒頭の図に示したようにその列名だけが変換されます.即ち,それ以外の列名はオリジナルのままになります.一部の列名だけ隠せばいいときなど便利なので覚えておいて損はありません.

それではよいお年をお迎えください.

統計的問題解決研究所

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