※王台…女王蜂を育てる専用の部屋。その中で幼虫が育っているということは巣分かれ(分蜂)が近いということ。女王を失って慌てて作られる変成王台は順調な予定に乗って作られるものとは一般に形状が異なるので区別がつく。
自分が来たがって、働き蜂さんを引きずってまで押しかけたよその家から、今度はなりふりかまわず逃げ出す殿下。西洋ミツバチの家だったらしい謎の空き家は、溢れんばかりの蜜が残されているだけでなく、世話を必要とする幼い子供達も残されてそのまま…。
現実に日本でもこのようなことが、花を訪れて子育てし、平和に暮らしていたミツバチさんの群れに突然起きています。
これだけ見るとCCDの典型例のようですが、私は欧米のCCDの影響を受けて女王蜂の輸入が一時止められたことによる蜜蜂不足が起きたことはあるものの、現象としてのCCDは日本ではまだ起きていないと理解しています。
では、この巣箱には何が?
日本でのミツバチ失踪はCCDとは切り離して考えるべき問題だと思います。目に見える状況としては酷似しているので紛らわしいのですが、日本ではこのように失踪した巣箱に他の群れが入った場合、問題なく暮らしていくケースが多いのに対し、欧米では次に入った群れも同じように滅んでしまう点が違います。
「ミツバチがいなくなっても困らない、蜂蜜食べられなくてもいいよ!」という学者さんがいてビックリしましたが、「ミツバチ以外にも草木の受粉を助けていた昆虫が激減して必要な農作物の授粉が行われないことによる経済損失が甚大」というのがミツバチ失踪が世界的な騒ぎになった直接の理由です。
欧米ではさまざまな原因が検討されていく過程で、効率と利益を追求するあまり、ひどい労働条件でミツバチを長年に渡り酷使してきたたことが明らかとなり、個としても群れとしても種としてもミツバチを追いつめてしまったのかもしれないという反省から、ミツバチの待遇を改善し、健康を取り戻させよう、という流れになってきているようです。フランスでは国レベルで沿道に花を植えるプロジェクトも始まったそうでうらやましいです。
日本では、幸いにも欧米での事例を教訓として事前に危機を回避するチャンスがあるにもかかわらず、調査も対策も遅れている状態に見えます。
さらに怖いのは、ミツバチを家に帰れなくするものが人間にもどうやら影響があるらしいということがわかってきたことです。
CCDについて興味のある方は以下の本が予備知識が無くても順次説明されて、わかりやすいです。読み物としても巧みで引き込まれます。
『ハチはなぜ大量死したのか』 ローワン・ジェイコブセン
日本におけるCCDについては
『ミツバチは本当に消えたか?』 越中矢住子
という本があります。1冊目に挙げた本の著者さんも来日して取材した成果を巻末に追加してくれていますが、日本でのCCDについてはこちらの本の方が当然ずっと詳しいです。でも、この本の前提条件として1冊目をまず読まれることをおすすめします。