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統計リテラシーのネタに悩む

JMPではじめる統計的問題解決入門統計リテラシー

JMP16の新機能を少しずつ勉強してるけど,JMP15から予想以上に変わったことが多くて,戸惑ってます.『統計的問題解決入門』のJMP16対応をこのブログで書いていこうと思ってるけど,かなり大変なことになりそう.今の自分の分析のやり方は当時と結構違っているので,これもアップデートしていきたいと考えてます.それにしても,この本を書いた当時の自分はかなり保守的ですね.今はもっと乱暴というか大胆というか.これが良いことなのかはわかりませんけど.いずれにしても,ここしばらくは余裕がないので,新たに書籍を購入してくださった方も含め,今しばらくJMP16対応はお待ちいただければありがたいです.

特に今月は「統計リテラシー」についてお話する機会が続いていて,その時間が取れません.オンラインということもあって,一日やるととても疲れます.なぜかと思ってデータを取ると,話す速度が対面でやるときよりもかなり上がってました.対面でやるときは,時間が来たのでここでやめます,と言ってたのが,オンラインだとおそらく経過時間が目で見えるので,決められた時間にコンテンツを詰め込む調節が容易だからと推察してます.

統計リテラシーについては,このブログでも何度か言及してます.コンサルテーションのついでに統計を教えることもあるけど,統計以前のところで引っかかる人が少なくないということを実感してます.セミナーの合間にそれら統計以前のことをお話ししていたんだけど,最近はそれらをまとめて話す機会も多くなってきました.人によっては,当然知っていることばかりかも知れないけど,統計は知っていても統計リテラシーがない人がたくさんいるってのが日本の現状だから,反応はそれなりに大きいと感じてます.

日本では,統計リテラシーはデータ分析の能力と同義に捉えることがほとんどだけど,海外,特にアメリカでは,統計を使ったロジカルな意思決定という側面から捉えることが多いです.そこで,自分のセミナーも,後者の観点で統計リテラシーを考えるという趣向になってます.特にアメリカでは,ハイスクールで統計リテラシーをしっかりと学ぶので,世界を相手にする技術者ならば,アメリカ基準のリテラシーを身につけた方がいいよね.

こと統計学に関しては,受講者のレベルの開きが大きくて,題材の選択に悩んでいます.特に,新入社員の研修のように全員参加の場合は,統計学をほぼ知らないという受講者を想定するのが基本です.従って,題材もメディア・リテラシー的なものがどうしても多くなってしまいます.今のご時世,必然的にコロナ関連のネタも多くなる.

例えば,「イベルメクチンがコロナ感染症の致死率を下げる.」という主張を統計リテラシーで評価する,なんて問題を出すと,ほとんどの人がイベルメクチンを知らない.中にはイベルワクチンと誤読して,そんなワクチンもあるのかなくらいの認識の人もいる.これだけ世の中が大騒ぎしてるから,自分が知っているような基本的なことは説明の必要はないと思ってたけど,どうもその認識が違っていると最近感じてます.身近な情報をネタにするという目論見が外れてしまったので,次回からは別のネタにしようかとも思っています.

正直なところ,イベルメクチンを知らない人もいるというのは想定外でした.ノーベル賞を受賞した大村先生の発見した寄生虫駆除薬だけど,コロナの治療薬としての効能も海外では報告されてます.日本では治療薬として承認されていないのは,おそらくこの混乱の中だから,二重盲検による臨床データが取りきれてないのだと予想します.特例承認という制度もあるけど,厚労省は過去の薬害の経験があるから,積極的ではないようです.

そもそもは,伊豆のゴルフ場近くで採取した土の中の新種の微生物(放線菌)から抽出して作ったエバーメクチンという家畜の寄生虫駆除薬があって,これを元にして創薬されたのがエベルメクチンそうです.おそらく伊東の道の駅を超えて海沿いの道路をしばらく走った左手にあるゴルフ場だと推察してます.あそこらへんを知っている人は,もう少し走ると城ヶ崎に着くあたりですといえばわかるのではないかな.

イベルメクチンは,寄生虫駆除薬として既に広く使われているから,安全性という点では多くのデータが積まれている.但し,コロナ治療薬としては,有効という報告もある一方で,JAMAに有意性が見られなかったという研究も発表されてたりします.この論文は母集団の取り方に疑義があったとかで確か取り下げられたと記憶しているけど,今すぐには調べられないので,臨床試験のメタアナリシスの結果を調べてみました.この報告の図1をJMPで描き直してみたのがこちら.

この研究にはRCTも観察も含まれていることには注意.第一印象としてオッズ比の信頼区間に1がある研究が半数あって,思ったよりも効果は明確ではないんだなということ.

個人的には,イベルメクチンはウイルスの蛋白を核内に移送する物質の働きを抑制し,細胞との結合によるウイルスの複製を阻害する,という機序がある程度わかっているので,プラセボとして投与するのもいいかもなどと考えてします.今は助かる人が助かることを優先すべきだから.ただ,この機序はin vitro(試験管実験)で確認されていないので,理屈の上ではというレベルです.イベルメクチンの商品名である「ストロメクトール」を海外通販で購入している人もいるけど,それで安心できるならいいのかも知れない.

イベルメクチンがコロナ治療に有効という,現段階では真偽不明の情報をセミナーで取り上げると,それを真実と思ってしまうそれこそ統計リテラシーのない人もいるので,注意が必要です.そういうことを一々補足していくとどんどん話が膨らんでしまうのです.とはいえ,コロナに関してはいい加減なこと言えないしなぁ.一方で,無難な情報を題材に取ると面白みに欠けるのです.

それでは.

統計的問題解決研究所

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