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実験計画ノスヽメ

実験計画

『JMPではじめる統計的問題解決入門』の書名はどうつけようか悩みました.ようするに,「実験計画のデータから作成したモデルによるパラメータ最適化入門」なんですけどね.長くて書名にならない,もっとキャッチーな言葉はないかと思案したんです.『JMPではじめる..入門』という部分はオーム社が決めていたので,素直に『実験計画入門』とでもしようかなとも思いました.今になって振り返ると,書名としてはそのほうがわかりやすかったかもしれない.

だけど,自分としては,実験計画という言葉だけじゃ,それによるデータを分析するということまでは含まれてないと考えてます.実験計画ならなんでもいい訳じゃないよね.実験計画するだけなら品質工学いわゆるタグチメソッドでもいいということになる.だけど,現時点で日本の産業界に根付いていると言えないのは,ほとんどうまくいかないからなんです.品質工学で使う実験計画の直交表はJMPでは「タグチ配列」で作れるけど,ご存じのように「古典的な計画」に分類されてる.

品質工学とは違うよってことを明確に示したかったし,実験計画とそのデータ分析手法を合わせて,もっと相応しい言葉はないか?統計的問題解決としたのはそんな理由なんです.

というわけで,本日の「実験計画のススメ」は実験計画するだけじゃなくて,そのデータを有効に活用することまで意識して書きました先々週のブログに掲載したJMPer’Meetingでの配布資料をもとにしてるんだけど,『統計的問題解決入門』にも掲載しました.と思って探したけど,見当たらない.大幅なページ数の削減が必要だったから,初稿で削っちゃったのかも.もしかしたらどこかに掲載されてるかもしれないけど,『統計的問題解決入門』お持ちでない方もいると思うので掲載しておきます.本来は消去したつもりだったファイルだしね.

この文章を書いたのは,医薬系等の一部の業界を除き,当時(今も同じです)日本の一般企業ではまだ実験計画が普及しているとは言えない状況だからでした.その理由として,一つには上司の理解不足というのがあります.実験計画はやりたいんだけど,上司がなかなか認めてくれない,そんな相談を受けたこともあります.そこで,どのように上司を説得したらよいかを示すことがモチベーションでした.

このときのJMPer’Meetingでは,技術者の一人一人が局所最適化を実施する際に,システムの統計モデルを確立しておけば,いずれステークホルダー間の壁を壊す必要がでてきたとき,それらは創発をもたらす可能性があることをお話ししました.(これが第5講のテーマです.)それには,まず「技術者は粛々と実験計画に則って実験計画する」ことが必要です.そのことをメッセージとして読み取ってくれると嬉しい.

*以下では実験計画をDOEと略して書きます.

その1.DOEに失敗なし
どのような失敗であっても,必ずDOEの結果は役に立ちます.結果が得られなかったことを失敗とする上司もいるでしょうが,そのときは成功に必要な失敗であってもそれは失敗と言えるのかと尋ねる皓こと.そもそも失敗することを前提として,DOEの戦略を立てることさえあります.

その2.一度やったら二度おいしい
前の世代の製品で一度DOEを実施しておけば,次の世代の製品開発ではそのときの知見が活きます.例えば,製品のメカニズムが同様であれば,有効な設計因子などは基本的に同じはずです.特に因子間の交互作用は物理が同じであれば,同じと仮定してよいでしょう.これらの知見を使えば,カスタム計画で実験数を大幅に圧縮できます.既存実験データから得た知見が後々使いまわせるということに他なりません.

その3.兵站軽視の戦いに勝利なし
日本が太平洋戦争で大負けしたのは兵站軽視というよりはそもそも兵站の重要性に気づかなかったからと言われています.因みに,太平洋戦争の戦没者230万人のうちおよそ140万人は,戦争で直接亡くなったのではなく,栄養失調による病気や餓死だということです.精神主義の名のもとに兵站を軽んじたことがその理由でしょう.兵站とはロジスティックスであって,後方から前線への兵員や弾薬,食料などの物資の輸送(戦略)のことです.後方の司令官は兵站の戦略を練ることが任務と言っても過言ではなく,これは我々の上司が,実験にかけるリソース(時間,費用,人)のマネジメントをすることと同じです.DOEを実施するために必要な開発リソースは明確であり,逆に,DOEによる開発でなければリソースの見積もりは困難です.開発リソースを正確に見積もることなくして,どうしてそれをマネージできるでしょうか.兵站の戦略を間違えば戦いは負けます.特に日本陸軍の犯した最大の過ちである戦力の逐次投入だけは避けなければ,その結果が全滅であることは歴史が証明しています.

その4.生き残るためのDOE
1908年フィンランドはヘルシンキの生まれGustav Elfving[1]の話を昨年のDiscovery Summitでお話ししました.極地で凍えて遭難せずに生き残るために,最小の観測回数ですむように工夫したのがカスタム計画(最適計画)のもとになったのです.もしも,実験リソースに限りがあるのであれば,カスタム計画以外には生き残る術はないでしょう. 

その5.技術の缶詰
日本の人口は減少しています.オリンピックが開催される2020年には2010年からほぼ今の四国4県に相当する人口の400万人弱が減るという試算ですから,これは大変な事態です.上で話した熟練職人もどんどん引退して減っている現状では,何とかして彼らの技能を残しておかなければならないのです.一つの方法が,DOEによって熟練者の技能を統計モデリングという缶詰にしておくことです.職人の世界では困難な面もありますが,我々の工業分野では,次の世代に自らが獲得した知見を残すことは,すべての技術者の責務です. 

その6.交互作用は宝
タグチメソッドでは交互作用をDOEから排除します.厳密には排除するのではなく,交互作用が結果に及ぼす影響を低減するためにL18を使うわけです.結果の再現性が良くなかったりすると,水準間隔を狭めたり,すべり水準を適用したりという小技を使わされたり,交互作用があるのは工程の管理がよくないからだと見当違いの指摘をされたり,しまいには,こちらの技術力が不足しているからだとか言いがかりをつけられたり(実話),これらのコメントは交互作用が諸悪の元であるという性悪説にのっとったものです.そうではなくて私は交互作用の性善説をとります.交互作用はシステムから排除するのではなく,その存在を把握した上でどのように役立てるかを考えることが面白いんです.醍醐味とでもいうのかな.技術開発を競争に例えれば,自分と同じく相手も走っていることを考えてください.自分と同じ体力の持ち主であれば,根性だけでは抜けるものではありません.そこで,交互作用という風を利用するのです.うまく風に乗れれば,相手の背中を遠くに見ていた状況が一気に逆転し追い抜く可能性もあります.相互作用は技術者にとって宝なのです.もちろん,そのためにはDOEにより交互作用を検出できるデータ構造を準備することが大前提です. 

その7.DOEは進歩する
実験計画と言うとあの丸善の田口先生の上下二巻を思い浮かべる方が多いようです.残念ながら,分かりやすい本だとは言いがたく,内容も当然ですが最新ではありません.しかしながら,DOEは今現在も進歩しています.そういう意味も込めて,私はここで実験計画ではなくDOEと呼んでいます.例えば,JMP11で実装されたDSDなどはDr. Bradley Jonesが論文を発表したのは2011年のことです.上司は今のDOEを知らないかもしれません.今のDOEを知らずして実験計画の有効性については議論できないと言いましょう.新しい製品の開発には新しい手法を使う,これは道理ではないでしょうか.JMP15ではGO-SSD(群直交過飽和計画)も実装されました. 

以上が「実験計画のススメ」です.実はもういくつか理由をあげることができるけど,項目は7つくらいがちょうどいいので.

もしもこれから実験計画を始めようというかたがいらっしゃいましたら,遠慮なく質問してください.一般的なことであれば,コメント欄に,公開したくない内容が含まれているならば,トップページの上の「お問い合わせ」からどうぞ.

それでは,また.JMPを使って楽しくDOEをしませんか.

【参考文献】

[1] Nordström, Kenneth (1999), “The life and work of Gustav Elfving”. Statistical Science 14 (2): 174–196 

統計的問題解決研究所

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