僕とサブローちゃんが統計の本になりました!

ゴッド・オブ・ウォー総評漫画:誰もが神になれる傑作


ゴッド・オブ・ウォー終わった。令和最初に買うゲームを外さないようにと入念に選んだが、予想したより段違いに素晴らしい傑作だった。亡き妻の火葬という重苦しいスタートから打って変わった想像を絶する敵との想像を絶する戦いに、あっと口を開けて掴まれっぱなしのまま、めくるめく神話の世界に連れ去られた。そこで幾多の不思議を次々に目の当たりにし、息子を守って巨人を倒し竜を討ち、その成長に気を揉みながら、夢中で駆け抜けた。

今、振り返ってみると、神話世界の事象を目撃する映像的に印象深い場面、父子としての節目となった出来事、戦っている自分が驚いたダイナミックな戦闘など、いいことしか思い出さない。つらかったこと、悲しかったことも思い出すが、それは息子に嫌われたとか、息子が死にそうとか、あくまで主人公クレイトスにとっての辛さや悲しさであり、話を深くするためには無くてはならない部分でもある。いつものような「ここからやり直しとかひでぇぇぇ」「判定が理不尽だろー!」のようなプレイヤーのつらさではない。

たった1年前の作品なのに日本ではイマイチ名前を聞かないこの名作が少しでも知られるようにと願いを込めて、記憶が新しいうちにゴッド・オブ・ウォーのどこがすごいか記録しておこうと思う。

テーマ

父と子の絆。この王道だが難しいテーマにがっぷり真正面から取り組んでいて、しかも成功している。アメリカのホームドラマのようなベタな展開は一切なく、話がどんな展開になっていてもこのテーマは地下水脈のように見え隠れしながらストイックに全体を通して流れており、オープンワールドでプレイヤーがまちまちなルートで進んでいっても、着実に進展していく。結び方も見事。

サブテーマ

冒険を始めるとすぐにオーディンはじめアース神族の悪行の数々について聞かされることになる。続けていくうちに現代の我々が「北欧神話」と信じているものはオーディン政権のプロパガンダによる、彼らに都合のよい「勝者の歴史」に他ならないのではないかとの思いを抱くようになる。神話だからわかりやすいが、他のあれやこれやもそうかもしれないよ?と考えさせてくれる。

ストーリー

テーマからして真面目なのだが、話も予想以上に硬派で真面目だった。結末にはあっと驚いたし、数日間じわじわきた。でもこれ、最低でも北欧神話の大物くらいは把握して、ある程度自分でイメージを持っていないと「え?これで終わり?」という感想にならないかと心配にはなった。自分は小さい頃神話ヲタで、引かれるので表面には出さないようにしてきたが、今はもしかして普通の会社員が「あいつ酔っ払うとトールみたいに暴れるから飲み会に呼ぶのやめようぜ」と言って通じるくらい北欧神話が知られているのかな。そうなのかな。違うよな。アメリカではそうなのかな。トールが主人公のアメコミとかカーケア用品とかあるもんね。日本でこの結末はどうだろう。ソシャゲだと北欧神話テーマのキャラが必ず出てくるから大丈夫なのか。僕にとっては後を引く天晴れな結末だった。

神話と時代考証

上記サブテーマで述べたように、このゲームの世界はオーディン側ではない別視点から語られるため、一般的な北欧神話とは異なる点が多い。が、神話というものはそもそも人間側の社会情勢によって統合した民族の神同士が結婚したりと常時改変されていくものだし、時代や地域によって諸説あるのが普通であって、現代は信仰する人がいないので更新が止まっているだけとも言える。この世界なりにつじつまが合うように齟齬が大きい点は説明されていることからも、これはそうした「諸説」のうちの一つであろうとしているのだと思う。時代考証もそれほど詳しくない自分にもわかるほどのおかしさはないと思う。ワルキューレの精巧すぎる金属の翼などもドワーフの超絶技術で説明されるので問題ない。壁画やルーン文字など細心の注意を払っているように見える。特に巨人の伝承を伝える三連画の美しさは眼福の域に達する。主人公クレイトスの武器と盾が神話時代のギリシアとしてはおかしいし彼は神でもないはずだが、これはPS2時代から引き継いだもので前作を知らないので説明があったのかもしれないし、そもそも今作では「こういう主人公です」ということで違和感は覚えなかった。

戦闘システム

複雑なようで、難易度をイージーにしてガチャガチャしていれば最初から鬼神のように戦える。慣れてくるとスキルを組み合わせたり、武器防具のスロットを工夫したり、防御、防御崩し、パリィ、打ち返し、範囲攻撃、単体攻撃などコマンドを使い分けたり、息子と連携したりと、さらに複雑な戦い方もできるよう入念に設計され、調整されたシステム。運動神経が残念な僕でもちゃんと巨人やドラゴンをストレスなく、しかし、適度に苦労して、ドキドキハラハラしながら討ち取ることができる。ヴァルキリア戦だけは苦戦したが、これは本編には関係ないので強制ではないし(追記:2週目は雑魚やボスの強さは変わらないようだが、女王は強くなっているかも)、どうしても無理なら装備を引き継いだ上に底上げできる2周目で叩きのめせばよさそうだ。また、うまい人にはGod of Warモード(途中で難易度変更できない)というチャレンジも用意されており、全方位抜かりなし。そういえば雑魚戦もうざいと感じたことが一度もなかった。これはすごいことではないか。

グラフィック

自分の好みにしてはやや濃いが、美しい。背景となる壁画や北欧の大自然もいちいち足を止めて見入ってしまうほど。息子も背景に反応し「こんな大きい滝初めて見た」「わあ…」などと立ち止まるのが微笑ましい。ムービーもダイナミックかつ何が起きているかちゃんと分かり、戦闘や話を盛り上げるために効果的に使われている。処理落ちなどの見苦しい点も一切ない。

キャラ設定と会話

正統な北欧神話のキャラ付けとは相当異なるキャラ付けをされている人物も登場するが、世界観自体が従来の北欧神話とは真っ向から違うので、それはむしろ自然なことだろう。大事なのは、それぞれが一貫した性格を持っていて、丁寧なセリフによって肉付けされていること。特に頑固で心を閉ざしている主人公クレイトスと母を亡くしたばかりで怖い父とどう接していいか戸惑う息子アトレウスの性格づけと、話の進行に伴う変化とそれが見え隠れする会話がいい。イベント直後だけでなく、ふと船を漕いでいる時にも大事な話が始まったりするので目が離せない。英語音声と日本語字幕でプレイしたので、洋画の字幕のように短く的確に訳してある日本語訳にも度々感動させられた。

成人指定

気絶した敵を掴んでからの攻撃が「素手で引き裂く」とか「口に斧をぶち込む」とか「尻尾を持ってビタンビタン叩きつける」などと残虐なので規制対象となっている。ギリシアを舞台にした前作では女性の裸とかそっちもコミだったようだが、今作ではエロは美人も一切出ないしエロに関してはマイナスではないかというくらいエロくない。さらに主人公が幼い息子を連れているので、「坊やには早い話になるからやめとくけど」みたいに登場人物も気を遣って下品な会話を避けたりする。いわば劇中G指定みたいになっているのが面白い。だから上記の掴み攻撃がなければ成人指定にしなくて済んだのに惜しいと思ってしまう。とはいえグロ攻撃くらいしないと人間サイズで巨人や竜を倒すチャンスがないし、人間離れした戦いを楽しむのもこのゲームの大切な要素なので仕方ない。

難易度と遊びやすさ

イージーから最も難しいGod of Warモードまで選べる。最難関以外はいつでも難易度を変更できるし、イージーだから結果が変わるということも多分ない。GOWモードは違うのかもしれないが、隠しボスと真エンドがある、というようなことはなさそうだ。大多数を占める普通のプレイヤーがストレスなく冒険を楽しめるように細心の注意が払われている。途中から登場する、封印された扉を開けるためのギミックも、制限時間が加わって「ついにミニゲームですかあ?」と構えたところ、いやならボタン1つでスキップできるようになっていた。うっかり倒れてもチェックポイントからやり直せるので困った覚えもない。

クリア後

クリアした後もやり残したサイドクエストや収集のために探検を続けることができる、というのはオープンワールドのRPGとしては普通だと思うが、息子との関係は変化し続けていくので、全てがわかったあとで各地に出かけていく意味がある。関係が改善されているのでまったりほのぼのできるし。序盤の船旅は主人公の態度が酷すぎ、息子がかわいそうでヒヤヒヤしたことを思い出しながらゆっくりオールを漕ぐ。息子ができたらキャッチボールしようとか釣りしようとか夢を持つ父親は多いが、暇な時は息子と船に乗って探検の旅に出る、というのも乙なものではないか。

強くてニューゲーム

1周目の強さや資産を引き継いで最初から遊べる。最初から強いし操作も慣れているので、本当に神のように戦える。ただ強いだけでなく、1周目の最高装備のさらに上のランクの装備が次々に解禁されて、そうした装備を作って鍛えていく楽しみもある。世界蛇の話を息子が理解したりと、微妙に違うところもある。世界の裂け目は1分以内に敵を倒すという制限がついていたりもして、末長く遊べるように丁寧に用意されている。

DLC

出ないと公式に発表があった。最後にちらっと見える人物と戦えないのはイージーだったからかと思ったが、そうではなく、DLCの予告ですらなく、自作の予告ということらしい。従って、追加ボスのために装備を鍛える必要はない。

総合評価

映画より豪華で映画より没入できる映画の上位互換としてのエンターテイメントの未来を予言する傑作。ホロウナイトのように上手くないと楽しめない、上達する喜びを味わえるスポーツとしてのゲームもあっていいが、ゲームを頑張らない人でも楽しめる娯楽としてのゲームが今後発達していくといいと思う。文句が多い自分でも驚くほどケチのつけようがない。雑魚戦さえ楽しく、豪華なのにロードは早い。これだけの傑作が、本国でどうかはわからないが少なくとも日本では1年しか経っていないのに、ほぼ話に出ないのが不思議でもったいない。主人公がハゲおっさんだから?だが強くて頑張るハゲ父さんだ。美人が出ないから?モゴモゴ…ええと何だっけ。そうだ、名作シリーズとして2980円と安くなっているので、一人でも多くの人が息子と一緒に神話の世界に飛び出していって共に成長する喜びを味わってほしい。

ゴッド・オブ・ウォー評価漫画:誰もが神の戦いを体験できる傑作
自分がうまくなった錯覚に陥る理想の戦闘システム

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