95. あなたはだあれ?(5)

95. あなたはだあれ?(5)
95. あなたはだあれ?(5)

単なるよそ者どころか、種まで違うとわかった以上、これまでの養育にかかった資源のことを置くとしても、雄蜂の唯一の仕事、結婚、でさえ群れにとっては無意味、どころか妨害の意味さえあります。追放を言い渡す女王様の判断は妥当でしょう。もちろん殿下もそれはわかっています。仲良しの働き蜂さんが腕にしがみついて引き留めても、去りゆく足は止まらない。

種の違いにショックを受けたものの、別離を受け入れられない働き蜂さんは、敵に対する威嚇と仲間に対する警報の行為、翅を鋭く震わせて警戒音を出すシヴァリングを母なる女王様に向けてしまう。横にいるねえやも、そばにいる姉妹たちも…伝染するように伝わって行く警戒音は、やがて家全体を包み、外からも聴こえるほどに。ここまでの巣ぐるみの警戒音は通常、最悪の天敵、オオスズメバチが内部に侵入してきた時くらいにしか聴かれません。


紛らわしい部屋…女王様はまず部屋の大きさを探って、大きければ雄になる未受精卵を、通常サイズなら雌になる受精卵を産みます。

異なった地点から同時に作り始めたような場合(よくある)でも巣板は見事な幾何学模様を作りますが、接合部分にはどうしても大きさにばらつきが見られることもあります。そのような大きめの部屋には、特に雄蜂を発生させるつもりではなくても雄蜂の卵が産み落とされることになるはずで、日に何千と産むような場合、無意識に処理しているだろうから気がつかなかったのだろうと女王様は言っています。大きさの判定結果と弁の開閉は条件反射のように起きるんでしょうから。

また、働き蜂になるべく産まれた卵から2倍体の雄蜂が孵ることもありますが、これは近親交配の場合に起きるとされ、ちゃんとわかっている働き蜂が処理してしまうのでおとなにはなりません。

ところで「シヴァリング」ですが、昔の文献にはシヴァリングとなっていて、shiverという単語は翅を震わせて音を出すという行為の名称としてふさわしいと思うのですが、2000年以降の本で「シマリング」の方が多く、疑問です。shimmerはグツグツ煮える、というような意味で、翅を震わせてシャッ!という大きな音を出す行為とは結びつかないのですが、なぜこちらの用語に置き換えられたのでしょう。私としては何か新たな情報が得られるまでは感覚的に納得できる「シヴァリング」の方を使うことにします。

※追記
上記shimmerについて。結論から言うと1975年の坂上先生の名著『ミツバチのたどったみち』に
shimmeringとして記載があるので、正式にshimmerで間違いないようです。個々の行動より群れ全体が吹いた鍋のようにシューシューいう、という表現ということでしょう。

自然に翻訳がされている用語の中でshimmerというあまり一般的ではない外国語をそのまま用いていることが異様に思いましたが(shiverでも同様ですが)、これはよく考えるとニホンミツバチ特有の行動であり、確立された言葉が学界に無かったので、論文などで世界に向けて発信する都合上そうなったのかもしれないですね。

やはりニホンミツバチ特有の「振身行動」は何という英語になっているのか気になります。

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