68. かんながけ

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みつばち漫画みつばちさん:68. かんながけ

せっかく集めてきた花粉を食べた子供達がお腹を壊し、身に覚えがないのにその責任を問われて閑職をあてがわれた働き蜂さん、殿下との通信も分断され大ピンチ!

…そうでした、プラプラ得意な殿下の方から来れば問題なかったのでした。

社史編纂室なんて終身雇用時代の思い出話で置いてくれるだけマシ、今は追い出し部屋らしいですよ、働き蜂さん!あ、ミツバチさんの社会は昔も今も終身雇用制でしたね。

さて、「かんながけ」は、そうです、実際には製材しているわけではなく、それっぽい動作をしているだけなんです。では何なのか、というと、発見者、25匹の働き蜂の動きを羽化から22日間、221時間に渡って観察し続けた愛と根性の人、大谷剛さんの原文を、ちょっと長いですが編集すると正確さと体温が失われるので、そのまま引用します。

”表に示した25個体のうち、一番「仕事」をしなかった印象の強いのは3699ですが、数値の上では意外にも働いた方です。(羽化後2日から22日までの221時間の観察のうち、勤務時間は46%、一日あたり11時間勤務)。この個体はB1(巣室に頭から入り込んでいる。仕事中か休息中か、はっきりしない)とWx(ロウを齧っている)が長く、Wxも巣の周辺部のロウをいい加減にー熱心ではないが長く続けてー齧っていたのです。B1も空き室がかなり多かったと記憶しています。(B1とWxを除くと仕事時間は4.8時間に低下。なお表4はB1とWを除いた数値)。多くの仕事もちょっとやっては他の個体にとられ、または任せ、ブラブラしながら次の仕事に少し手をつけるという印象でした。また他個体にあまり見られなかった「かんなかけ行動」(巣壁でかんなを掛けるように体を前後させ、脚で壁面をなでる動作を繰り返す)が多く、これは仕事に含めませんでした。私はこのかんなかけを檻の中の熊の往復運動と類似のものと見ています。つまり、仕事がやりたくても他個体に取られてしまうので、一種のフラストレーションに陥り「かんなかけ」をするというわけです。”(『ミツバチの世界』/坂上昭一 より引用)

絶版で手許にないと言ったばかりの坂上先生の『ミツバチの世界』ですが、なぜ逐語引用できるかというと、重要な箇所と好きな箇所はノートをとっておいたからです。コピーではなくタイプしたのでタイポは心配ですが…。名著なので中古でもいいから買わなくちゃ! 復刊ドットコムに出すべきでしょうか。

強制収容所では囚人を苦しめるために強度が高く消耗の激しい穴掘りをさせることが多いのですが、さらにこの穴を埋めさせ、また掘らせる、ということをすると気の毒な囚人達には、かなり堪えるそうです。埋めたばかりの穴なら掘りやすいのではないか、とか、そういう話ではなく、無意味な労働をしているという無視できない事実が精神的に厳しく心が折れるのだそうです。

従って、この「かんながけ」は、大好きな蜜集めを禁じられた働き蜂さんが(罰として?)命じられる仕事として適切なように思いました。

ところで、後の坂上先生の著書『ハチとフィールドと』では、大谷さんの同じ観察記録が表として使われていますが、さりげなく「かんなかけ」にあたる労働が「特殊清掃」に名称変更されており、しかも花粉押し固めと位置が逆になっています。これに対する説明は、この著作中にはありません。『ミツバチの世界』以後にかんながけが実は巣の衛生条件向上に役に立っていた、などの新知見が得られたのもしれませんが、それは私には今のところ不明のままです。

この「かんなかけ」の発見からわかる重要なことは何かというと、仕事がなくなったらスイッチが切れるように休んだり寝たりする働き蜂さんばかりではないということです。労働意欲に差があることが群れを強くする、ということは前にも言いましたが、個性の発現は労働意欲の差だけではなく、意欲はあるのに要領が悪い(でも仕事したい)、というような個性もあり、実にいろいろだということです。

ミツバチは超個体であり、群れを個体と考えるべき、との考え方は子供の頃に学校で教わりましたが、それでもじっと見ているとそれぞれに個性があって何事かを考えており、同じ現象に対する反応が一律ではないことがわかってくる、このあたりがミツバチさんに魅了されていく人が後を絶たない理由のように思います。巣を守って倒れる働き蜂さんの犠牲に涙することが血小板が傷口を塞いで自身は働きを終えることを悲しむのと同じ、と割り切ることはできない何かがあります。それはすなわち、個体が脳を有し、そこに個性が見られることではないでしょうか。

見かけだけでもすごくかわいい、ということを置いても、です。

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